私の声は今のエアトルには届かない。
はっきりと分かった事だけを抱えてグラフノーンへと戻る。
「…うまくいかないもんだよね…」
彼を変えられるのは彼の妹ただ1人。
そう思っていたけれど、その彼女の言葉ですら今の彼には全く耳に入ってなかった。
それどころか、実力行使に訴えて…
あの時の彼女の真っ青な顔を思い出して身震いする。
前から自分の力に疑問を感じていた彼は、今回の事をどう考えて、どう思ったのかしら…
はっきりと口にした事は無いけれど、エアトルはトラップの事をただの妹とは思っていない。
神話の時代からの強大なまでの力を共有するべき、絶対唯一の存在…
言いかえるなら、2人で1人の対となる存在。
そんな彼女を自分の力で失いかけて…
ソルティーも「任しとけ」って言ってくれたけれど、それほどまでに大事に思っているトラップですら、
力ずくで排除しようとした彼をどうやって何とかしようというのかしら。
そうやって、頭の中でずっと回りつづける考えが辿り着くのは、あの後の事。
目覚めるはずの彼女が仲間である人間たちを助けに行こうとするのは目に見えていて…
サーラ、フェイルス、ソルティー…そしてトラップ。
全員が自分と反対の立場を貫く事に彼はどう思うのかしら。
色々と考えているうちに眠ってしまっていたらしく、月明かりに目が覚める。
こうやって部屋に閉じこもっていると、普段なら誰かが何かと気にして来てくれるんだけど…
今日ばかりはそっとしておいてくれたみたい。
紫の明かりに誘われる様にテラスへと…
ぱたん、と軽い音を立てて開いた扉を前に凍り付く人影が1つ。
「エアトル…」
今まさにノックしようとでもしていたのか、軽く握られた右手が中途半端な所まで持ち上げられている。
その右手を口に当てて咳払い。
「…その…今日は悪かったな。…どうかしていた」
そう言ってくるっと背を向ける。
「…それだけだ。では、な」
「ちょ、ちょっと待って」
彼の袖を引っ張って、引き止める。
「あの後どうなったの?」
その言葉に、かなり複雑な表情の彼。
怒りはあまりないみたいだけど…“何でこうなるんだろうな?”と考え込む時の顔。
「あの後…か」
あまり言いたくなさそうな彼だったけれど、しばらく考えて口を開く。
「君と別れた後、サーラとフェイルスの部屋にロックをかけた…私以外にはまず解除出来ないはずだった」
そうやって話し始めたのは、予想の範疇を少し飛び出していた。
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