ほとんどの人がきっとこの試合で騎士団長が決まると考えていると思う…
そう、ソルティーとフェイルスの試合。
試合場に気軽に足取りでやってきた2人には、試合が始まっても言葉を交わしている。
「本気でやりあうのは久々だな」
剣の平をぺたぺたと肩に当てて、ソルティーが一歩進んだ。
「まぁな」
それに合わせてフェイルスはワンドを無造作に振って間合いを保つように横へと移動。
「相変わらず剣の方はからっきしだろ。
少しは練習しろよな。今だって剣じゃなくて杖なんて持ち出しやがってよ」
特有のにやにや笑いが口元に張り付いている。
「そっちこそ、そのバカでかい剣は一体何だ。振りまわすだけで体力を消耗しそうだな。
ま、魔法がてんでダメだから力で押し切るしかないんだろうが」
「生意気言いやがる。
団に入ったばかりの時はじじいの後ろにべったりだった甘ちゃんのくせによ」
余裕で返したソルティーの言葉にフェイルスの目が鋭く光った。
「誰が甘ちゃんだ!?」
ワンドの先から小ぶりのファイアーボールが5つ立て続けに飛び出しソルティーに迫る。
「こういう所が甘いってんだよっ!」
刃一閃、前から来た1つ目・2つ目は剣圧で蹴散らし、横から来た3つ目・4つ目は上に飛んで避けた。
「風よ!」
最後の1つは力ある言葉で生み出された壁に弾かれて空の方へと飛んで行く。
ソルティーって…魔法苦手だったはずなのに…
「オレがいつまでも魔法を弱点にしてると思ったのか?
甘いよなぁ…お前」
フェイルスの表情から余裕がなくなる。
確かに、ソルティーが魔法を以前より使えるとなると、フェイルスの方が圧倒的不利。
「ふぅん、使いどころは分かってるんだな」
上から声が降ってきて思わずそっちを見る。
「エアトル…もしかして」
私の視線に頷いて彼はあっさりと答えた。
「あぁ、魔法を教えろって詰め寄られて…少しな」
それで風魔法って訳ね。
「言っておくが、風魔法を教えたのはソルティーの適性からだぞ」
私が考えたことを見透かした様にエアトルが言う。
ソルティーの適性が風…どちらかというと炎のような気がするけれど?
「でも、エアトル様がコーチではフェイルスにはあまりに不利ですね」
苦笑するフォルク。
「だからといって、弱点を克服しようとしているのに“ダメだ”とは言えんだろう」
ん…そういえば、そうよね。
ソルティーはどうしても勝ちたいからエアトルに頼んだんだと思うし…
でも、フェイルスが剣を習うとしたら、この試合ではライバルになるサーラかソルティーしかいないし。
そう考えると、やっぱりフェイルスには分が悪いかなぁ…
「あぁ、でも…フェイルス善戦してますよ」
ほら、と指差す先には今も間合いを取りながら、魔法を連発する彼の姿。
カマイタチに竜巻、電撃と風魔法を次々に繰り出すフェイルスにソルティーもなかなか近づけない。
「こんちくしょう、てめぇ卑怯だぞ!」
「まともな魔法が使えないバカに言われたくないな」
「…さすがフェイルス」
ぽつりとエアトルが呟く。
「え?何?」
何の事か分からない上げた声にフォルクが答えてくれた。
「いくらソルティーが魔法を学んだといっても、付け焼き刃。
同じ風属性同士をぶつければ、魔力の高いほうが勝つって事」
なるほどぉ…
「本当に短期間しか教えなかったからな、使い物になる程度にしたのは風だけなんだ」
“そこに気付かれたらどうしようもないな”とエアトルは苦笑い。
納得して試合場の方へと視線を戻した次の瞬間、ソルティーが剣を宙高く放り投げた。
「何を…っ?」
驚くフェイルスにソルティーがにやりと口をゆがめる。
「バカかどうか…その目で見やがれっ!」
複雑な印をすばやく結ぶ彼。
「あれは…」
エアトルが目を見開いて、前へと身を乗り出した。
「風竜!」
ソルティーの声が会場に響いた瞬間、放り投げた剣に雷が落ちる。
一瞬の閃光の後に現れたのは小さくても見間違えようも無い竜の姿。
「風よ…切り裂け!」
その声に呼応して、開かれた竜の口からはゴオォ…と風が渦巻く音。
「まずい…」
「…ですね」
視線を交わした2人がすばやくいくつかの言葉を呟くと、風と炎2つの精霊が複雑に絡み合って壁を作り上げる。
「とりあえず、これで風は全部上に逃げるだろう」
その言葉が終わるか終わらないかという所で、風竜が風を吐き出す。
壁で隔てていても、びりびりと伝わるその衝撃。
見れば、フェイルスも魔法壁を作って攻撃を受けとめていた。
「っく…」
膝を付いて、肩で息をしているフェイルス。
さっきの風を受けるだけで殆どの魔力を使い果たしたみたい…
「そろそろ決着つけよっか」
再び元の形に戻った剣を手に、ソルティーはゆっくりと彼の元へと歩み寄る。
「お前…その剣に竜を封じてたのか…?」
何とか立ち上がろうとするフェイルスはソルティーに問いかけた。
「あれはオレの…ばあちゃんから教えてもらった魔法だ。
近頃使って無いからうまく行くか分からなかったけどな」
「そうか…お前。
魔法が使えない使えないと言っていたけれど…本当は…」
すっと彼の目の前に立ったソルティーはフェイルスの首に手を当てる。
「いや、使えないのも事実。
訳あってな、オレの魔力ってほとんど封じられてんの。
…今回はオレの勝ちな」
フェイルスの体が崩れる様に倒れる。
「よっと」
それを支えて、肩に担ぎ上げた彼はのんびりと控え室の方へと戻って行った。
魔力が封じられている…
ソルティーって、一体何者?
|