エアトルから騎士団長が決める試合があると知らせが来たのは数日前。
かつての人間たちとの戦いで失ったのは国王だけでなく、騎士団長も…
ずっと空席だったそれを埋めていたのは、副騎士団長のソルティーとフェイルスの2人。
けれど、今になってようやく騎士団長を正式に決定することになったみたい。
前評判の本命はもちろん副騎士団長の2人。
“いずれか2人に決定するだろう”とはもっぱらの噂。
でも、私は…
エルディアにある騎士団の演習場。
そこにたくさんの人々がひしめいている。
騎士団長になるための条件はいくつかあって、まずは全ての騎士の頂点に立つべき能力を有すること。
それを決定するのが今回の試合な訳だけど、それだけではなくて“清廉な人物である事”も重要な項目。
いくら飛びぬけた能力を持っていたとしても、その力を自らの欲のために使うような人物には資格なしということね。
騎士の中でもその条件を満たす者だけが、今回の試合に参加する事が出来る訳で…
控え室の奥で、同じく騎士団長候補のソルティー・フェイルスの2人と楽しげに話している彼もそんな一人。
「サーラ」
今回の本命だと思っている、サーラ・K・ラーディ。
私の声に背を向けていた彼が振りかえる。
「フェリア様?」
「およ?何だお姫さん。サーラの応援?」
ソルティーの言葉ににっこり微笑んで「そうよ」と答える。
「彼には頑張ってもらわなくちゃね」
トラップが戻ってくるまでに、彼女の一番近いところへ…という誓いを守るには今回の試合に勝ち残らないと。
「へぇ…サーラ…お前いつの間に…」
なんか意味ありげな視線をサーラに送るのは更に隣のフェイルス。
「誤解ですよ」
苦笑いを浮かべて、手を振るサーラ。
“彼が狙っているのは、2人が妹の様に可愛がっている子よ”と言ったらどういう反応がくるかしら?
試合を待たずして、ここで乱闘騒ぎが起きそうな気がするけれど…
「とにかく3人とも気合入れて頑張ってね」
「おう!任せとけ」
「承知しました」
即座に答える2人に対してくすくす笑いのなかなか止まらなかったサーラは、
「約束は守りますよ」
と控え室から私が出る直前に一言。
試合中、私はエアトルとフォルクに挟まれる位置でその様子を見る事になったんだけど…
「誰が勝ち残ると思います?」
「…順当に行けばサーラ、ソルティー、フェイルスのいずれか…
ソルティーとフェイルスのどちらかが残ってサーラとぶつかるかが気になるところだな。
サーラが最終的に残るかは…能力的に勝っているとはいえ、場慣れした彼らが相手では微妙なところだろう」
「サーラ…ねぇ。私が幼い頃に比べれば体格だけは他の2人に勝りそうな程にはなりましたけど、
代々の騎士団長に比べれば若過ぎやしませんか」
「別に構わんだろう。
それに、若いと言っても私やお前よりは遥か年上だぞ」
「ねぇ、2人とも私の頭の上で会話するの止めてよ」
頭の上を飛び交う声に堪り兼ねて、こう口にしてみる。
2人して背が高いから仕方ないけど、少しは考えてよ。
「あっと…ごめん」
こうやっている間にも試合はどんどん進んでいく。
見たところ、槍を使っている人が多いみたい。
中には錫杖を使って魔法を連唱している人もいるけれど、剣か槍…大抵の騎士たちはそれを使っている。
少しよそ見している間に、わぁっと声が上がったかと思えば、出てきたのはサーラ。
今までに、3人と戦った彼はものの数秒で相手を負かしてきた。
「あぁ、サーラの出番か…」
さっきまではあらぬ方向を向いて“早く終われ”と言わんばかりだった表情のエアトルも心持覗き込む姿勢になる。
この相手を倒せば、決勝となる試合。
サーラは力を抜いた手をプルプルと振ってほぐしている。
「さて、お手並み拝見と行くか…」
フォルクも楽しげにその様子を見つめる。
相手は前騎士団長の親類だという男性…名前はフェイブレッドと言ったかしら。
試合開始の鈴がなるやいなや、サーラに飛びかかる彼。
それをすっと横にかわしたサーラは詠唱もなしに大地を隆起させる。
狙いはフェイブレッド。
でも、彼は迫る鋭い大地を蹴って魔法から逃れた。
サーラの表情が心なしか厳しくなったような気がする。
「へぇ…相手もなかなかやりますね」
「そうだな。あれを避けるとは…運動能力はかなりのものだ」
2人がまた会話を再開させる間にも、試合場の中の展開は目まぐるしく…
フェイブレッドが剣で宙を切り裂いたかと思えば、そこから赤い蝶が飛び出し、
それに対して、サーラは精霊を使役して水の蜘蛛の巣を張って蝶を捕らえ、それごと消滅させて…
更に地狼を召喚したサーラに対してフェイブレッドは火蜥蜴を召喚してぶつける。
戦いというよりも…何か芸術を見ているような気がしてくる。
場内もしんと静まり返って、次に何が起きるか注目しているのがよく分かる。
けれど、決着はあっけないものだった。
フェイブレッドが唱えた威力が今までと桁外れの魔法を、防御壁で完全にとは言わないまでも防いだサーラ。
詠唱後の隙をついて、攻撃魔法を叩きこんだ後、満身創痍で立っているのがやっとのフェイブレッドに眠りの魔法をかけた。
ぱたっと倒れた彼をサーラが抱き起こすのを見て…
決着がついたのだとやっと認識出来た。
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