グラフノーンに戻った私をお父様は怒らずに迎えてくれた。
ただ一言“よく戻った”とだけ告げて…
そうして、前と変わらず待ち続ける時が続く。
違うのは以前にも増してエルディアへ頻繁にいくようになった事。
幸いダークエルフや人間、エルヒュリア…。
ううん、エルシャントがエルディアを襲うことは無かったけれど、戦いの爪跡はそこかしこに残っていた。
でも、それさえも10年20年と経つとすっかり消え、
戦いの記憶が人間からは消えようとしていた頃…私が待ち望んでいたことが叶った。
エアトルが…やっと戻ってきた。
「久しぶりだな」
第二成長期を過ぎたらしく最後に会ったときより背も伸びて大人びた彼は、別れた時と同じようにやってきた。
「う…うん。久しぶり…」
あまりにも記憶の中の彼と違っていて気恥ずかしい。
「ずっとうつむいて…どうした?」
身を屈めて私の顔を覗き込む。
エメラルドの瞳が私の心の奥底まで見透かすように見つめている。
「え?あ〜…その、変わったなぁ〜って」
慌てて手を振って、落ち着きなくテラスをぺたぺたと歩き回る。
「何だか、大人になったっていうか・・・
変だよね、エルフだからそうそう変わるわけじゃないのに」
私の言葉にエアトルは目を細める。
「私だってこれだけ長い時を過ごせば変わる」
苦々しく言う彼に以前と違うものを更に感じる。
明らかに彼は内面でも何かが違う。
しかも・・・いい方ではなく悪い方へ変化しているような気がする。
「…フェリア。
旅先で聞いたのだが…エルディアが襲われたというのは本当か」
「え…っ?」
予想してなかった言葉に『もしかして…エルディアに戻る前にここへ立ち寄ったの?』と聞くと、彼はわずかに頷いた。
「そう…」
まさか私から彼に話すことになるなんて思わなかった。
あの重い事実。
「本当よ。
エルディアは…ダークエルフ・エルシャント・人間の3種族に襲われた」
でも、エルアラ様が追い払ったから…
と続ける私の声も届いてないかのようにエアトルは空に浮かぶ二つの月を見つめる。
「…人間…か」
しばらくの沈黙の後、彼が無表情に呟く。
「分かった。
私はエルディアに戻る。
またこんな夜遅くに…すまなかったな」
ふいっと飛んで行ってしまう彼の瞳は、さっきまではわずかに残っていた輝きがすっかり無くなっていた…
寒々と全てを凍りつかせるような冷たい目。
あえて言わなかった…トラップがいなくなったことも、おじい様が亡くなる原因を作ったのが人間であることも。
…卑怯ですか、フィーン様。
尋ねられたこと以上は答えずに、それを他の誰かへと託してしまう私って…
でも、私からはあれ以上は言えない。
今でさえあんなに凍てつく瞳をした彼に、もっと残酷な事実を付きつけることなんて…
あの時と同じように遠ざかっていく姿に何も言葉をかけることが出来ない。
時を戻すことができるのなら、私は彼が旅に出るその前まで戻してしまいたい。
そして、今度は…
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