彼らはいきなりやってきた。
多数押し寄せる彼らにシェルヴィアン様は最前線に立ち、皆が避難するのを見守っていた。
その目の前にダークエルフ王が現れた。
当然のようにシェルヴィアン様はダークエルフ王と対峙し、切り結ぶ。
空中戦を得意としてたシェルヴィアン様は踊るように空を舞い、ダークエルフ王を追い詰めていく。
魔法と剣とが交錯する中で、一本の矢が飛んだのはそんな時…
肩を貫かれ体制を崩したのをダークエルフ王が見逃すはずもなく、シェルヴィアン様の身体を刃が薙ぐ。
宙に舞う赤い血…
とっさに癒しの技を使ったエルアラ様の力をその身体ははじく。
あまりにも狡猾な王は、魔力返しの魔法を我らの王にかけていた。
刻一刻と命が失われていく…それでもシェルヴィアン様は剣を振るい、魔力を行使しつづけた。
ダークエルフ王の勝ち誇った声が響き渡る。
「よく見ろ!お前たちの王は虫の息。
我が最愛の妻を見捨てたお前たちに同じ苦しみを与えてやる。
思い知るがいい、エルフたちよ!」
そうして…
「もういい…分かったわ…」
とめどなく涙が流れる。
淡々と言葉をつむぐサーラが痛々しかった。
大事なものをいくつもいくつも奪われて…
彼が戻ってきた時にどう思うんだろう。
「人間…」
サーラがぽそっと呟く。
「え…?」
「人間が全ての原因なのですよ…!」
彼にしては珍しく激しい口調で言い捨てる。
「ジーラ王子がこの国を出ていったのも人間のせいで、姫様の儀式が失敗したのも人間、矢を放ったのも人間!
どうして彼らはここまで我々を苦しめる…」
そう言って顔を覆った…
「サーラ…」
かける言葉も思いつかなくて、ただそばにいることしか出来ない。
『人と交わる以上、争いに巻き込まれることは覚悟しなくてはならない』
初めに人との交流を選んだエルフはそう言ったという。
けれど、奪われるだけなのなら…
そう考えた瞬間、地震のような振動が私たちを襲う。
「えっ…?」
サーラも顔を上げて周りを見まわす。
「何だ…」
「サーラ!何だこの地響き!」
扉が開いて、空色の髪の男性…副団長フェイルスが飛び出してきた。
それに続いてもう一人の副団長ソルティーも…
「分かりません!ですが…」
ただ事ではないのは確かです。
と続けたサーラの声に被さるようにもうひとつの声が聞こえる。
『このエルディアにいる全ての者よ…よくお聞きなさい』
それはエルアラ様の声だった。
『今から全てを洗い流します。
エルディアを侵そうとする不埒者よ。
今ならまだ間に合います。すぐにこの国から出ていきなさい。
さもなくば…命の保証はしませんよ』
ソルティーが叫ぶ。
「まさか…あれをやるつもりなのか!?」
普段は何でも笑い飛ばす彼の上げた半分悲鳴のような声に不吉な物を感じる。
「あれって何なんだ」
「あれは…エルディアにある最後の防衛機能だ。
エルディア中の人という人を洗いざらい“どこか”に放り出す。唯一除外されるのは…
急げ!!王の間に入るんだ!」
そういうなり、ソルティーは私たち3人を引きずり込む。
扉が閉まると同時に、地の底から響くような水音が鳴り響いた。
しばらくしてエルアラ様が戻ってくる。
「エルアラ様…大丈夫ですか」
フェイルスがそう声をかけるけれど、エルアラ様は顔面蒼白で唇も紫色を通り越して青い…。
とてもじゃないけれど“大丈夫”には見えない。
「えぇ…大丈夫よ。
とりあえず、彼らは去ったわ…」
そう言って崩れ落ちるのをソルティーに支えてもらったエルアラ様は、
「攻めてきた者たち以外がいなくて、助かったわ…
グラフノーンの国王も以前私が言ったことを覚えていてくれたのね」
と私のほうを見た。
え…?それって一体どういうことなの。
「あなたがここへ来たのは、あなたのお父様にエルディアの援護は出来ないとか言われたからでしょう…?」
頷くとエルアラ様は力なく微笑んだ。
「やっぱりね…
あなたのお父様に王家の最終防御機能を教えたことがあるの…
これを使うときに助けに来てくれた国の人たちを巻き込んだら困るから」
「そう…だったのですか」
私…お父様に酷い事言っちゃった…
「あなたも国に戻りなさい。
エルディアはもう大丈夫だから…」
彼らの目的は達したはずだし…
そう呟くエルアラ様の瞳には悲しげな輝きがあった。
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