すべての始まり5〜襲撃〜


 相変わらず、エアトルもトラップも戻ってこない。
 待つのをやめていっそ捜しに行ってしまおうかしら…
 そんな風に考えた私もそろそろ少女から女性へと精神的に成長を遂げる頃の事だった。

「フェリア様、大変ですわ!エルディアがダークエルフたちに…」
 侍女の一人が私の部屋に駆け込んできた。
「えっ…!?」
 取り乱して、要領を得ない彼女をなだめて聞いた話をまとめると、
『エルディアがダークエルフを中心とした人間とエルヒュリアたちに襲われて壊滅状態…』
 にわかに信じられない内容で、転移陣を使おうとドレスルームへ行く私を彼女は止める。
「フェリア様。今はダメです」
「何の事よ」
 振り解こうとしても、彼女の手はがっちりと私の腕を掴んでいる。
「フェリア様がドレスルームからエルディアに行くのは前々から存じてました」
 バレてたの…?
「平和な時分ならともかく、今は絶対に行かせません」
 それなら…と私はお父様がいる部屋へと向かう。
 壊滅状態というのはありえないけれど、3種族も共謀してのことなら、例えエルディアでも無事とは思えない。

「お父様!」
 国の重鎮がひしめく中で私はお父様の前に立った。
「エルディアに救援を送ってくださいませ」
 私のこの言葉に周囲がどよめく。
 お父様はそれを手で制して『それは出来ない』と私に告げた。
「どうしてですかっ」
「エルディアは我々エルフの国の中でも一番の自衛力を誇る。
 そんな彼らが敗れる相手では我々が救援を送ったところで無駄だ」
 無駄…
「そう切り捨てるのはエルフらしからぬ考えです!」
 私たちは何があっても仲間の危機を助け合うもの…
 そう教えたのは嘘ですか?
 それに対してお父様が『それでも出来ないのだ』と答えた瞬間、私はそこを飛び出していた。
「フェリア様っ?」
 待っていた侍女を跳ね除けて、私はドレスルームに駆け込み、鍵を閉める。
 もう、この目で見ないと気が収まらない。
 お願いだから…2人が戻る場所だけは残っていて…
 そう思って、私はエルディアへと跳んだ。

 私の目に映るのはいつもと変わらない部屋の様子。
 “もしかしたら襲われたっていうのも性質の悪い冗談だったのかしら”
 そう思うぐらいに静かな室内…
 でも、何かが焦げるような臭いが明らかにいつもと違っていた。
 後戻り出来ない様に魔法陣に傷をつける。
 これで…私はエルディアと運命を共にする。
 そう覚悟を決めた時、音を立てて扉が開き、何者かが入ってきた。
「誰っ!?」
 叫ぶと同時に印を結ぶ。
 敵だったら、ただじゃおかない!
「あぁ…遅かったのね」
 そう嘆息する女性の髪はトラップと同じ…
「エルアラ…様?」
「あなたがこちらに来る前に壊しておかなければと思ったけれど…」
 ちらっと私が傷をつけた魔法陣に目を走らせる。
「傷つけてしまったのね。
 世継の王女が他国と運命をともにするなんて…」
 前代未聞だわ…と呟くエルアラ様の後ろに人影が…
「後ろ…!」
 私がそう叫ぶより早いか同時か、身を翻し刃を一閃。
 後ろから剣を振り上げていた男の目の辺りに横線が入る。
「私を傷つけようなんて10万年早いわ」
 燃え立つような魔力が広がり、更に後ろで控えてた男たちがあとずさる。
 これが、かつて鳳凰姫と形容されたエルアラ様の…
「こうなったら仕方ないわね…ついてらっしゃい」
 私にそういうなり、指先を男たちに向ける。
 と同時にずしっという音が鳴り響き、男たちは、床に押さえつけられた。
「命は取らないけれど、無力化だけはさせてもらうわ…しばらくそこでそうやってなさい」
 絶大な魔力…それを目の当たりにして、背筋に冷たいものを感じる。
 トラップやフォルク…それにエアトルもこんな力を持ってるんだ…
 
 エルアラ様に付いていく間も続々と襲ってくる。
 それをすべて無力化させて進む先には王の間。
「サーラ!」
 王の間に続く扉の前に立っている彼に駆け寄る。
「やっぱりいらしてしまったのですね…」
 眉をぎゅっと寄せて唸るサーラ。
「ご…ごめんなさい。
 どうしてもじっとしていられなくて…」
「サーラ。中に数人入ってきてるわ」
 私の言葉をさえぎるように発せられたエルアラ様の言葉にサーラが頷く。
 そうね。今はそれどころじゃないのよね…
「えぇ、何せ相手は…どこまで防ぎきれるか…」
「…申し子の力が強大と言っても限度があるわ。
 私とフォルク。それに…」
 とそこで言いにくそうに言葉を切る。
「それに…?」
「いいの。気にしないで。
 とにかく、それだけでは数に任せてこられた時に防ぎきれないわ」
 きっぱりと言うエルアラ様。
 防ぎきれない…
 つまり、それはこのエルディアが落ちるということで…
「皆はどうしてる?」
 と、エルアラ様は王の間の方を見る。
「城下の者たちも含めて全員隠し部屋へと…」
「そう…あそこなら大丈夫ね」
「エルアラ様…っ?」
 歩き出したエルアラ様に焦るサーラ。
「大丈夫。あの人がいなくなったからってやけになってなんかいないわ…。
 あなたたちも早く隠し部屋へ行ってなさい。私も後で行くから」
 エルアラ様の言葉に色々と引っかかるものを感じる…
「あの人…?」
 何のことか分からず、サーラの方を見ると、彼は手を握り締めてぎりっと歯を食いしばっている。
 その場を去るエルアラ様の姿が見えなくなってからしばらくして、サーラは呟くように話した。
 あの人…エルディア王国国王だったシェルヴィアン様の最期を…




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