私がトラップから手渡された手紙を思い出したのは儀式の失敗から数年経ってから。
エアトルはまだ戻ってきてないし、3人も行方知れず…
そんな時に当時着ていた服を手にして文箱に入れたままのそれを思い出した。
開いてみた私は内容に驚いて、手紙を取り落としてしまう。
慌てて拾い上げて何度読み返しても、それは変わらない…
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フェリアへ
この手紙を読んでる時には、儀式が失敗して私たちがどこかへ消えてるはずね。
どうして分かるのってきっと驚くでしょうね。
私ね。フェリアが試練の事を聞いてエルディアにやってくる少し前に変な夢を見たの。
私の冒険者仲間が魔法陣に飛び込んで儀式が失敗する夢と
見知らぬ格好をした人間の子供になってる夢…その中で私は普通の女の子として暮らしてたわ。
おばあ様に聞けば答えてくれると思うけど…
水の申し子の見る夢って過去や未来の出来事を映すことが時々あるの。
だから…これはきっと確実の未来。
私たちは記憶を失って成長世界で人として生きることになると思う。
たぶん、もう戻れない。
私もみんなも記憶を失って、人の器にいる以上、自力で戻る事はまず不可能だから。
分かってたけど、どうしても言えなかった。
それから、サーラにもう一枚の手紙を渡してくれるかな。
直接渡す勇気が無かったの。
最後まで迷惑かけちゃってごめんね…
〜トラップ・N・フレイア〜
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封筒の奥に更に折りたたまれた手紙がもう1通。
これがサーラに渡してっていう手紙ね。
でも、何で分かっていて最後まで拒否しなかったの…?
私がエアトルといっしょにいたいって願ったから?
私は魔法陣を使ってトラップの部屋へと跳んだ。
主のいないドレスルームは当時のまま。
もちろん私室も…
「サーラ…」
何かを手で転がしてぼんやりと部屋に佇む彼。
「あぁ…フェリア様。いらしてたのですか」
ずいぶんやつれて、目も生気がない。
あれだけ大切に思っていたんだもの…ね。
「サーラ…トラップから手紙を預かってるの」
ごめんね。自分宛ての手紙だけだと思ってたから今まで開けてなかったの…
ともう1通の手紙を渡す。
それを無言で受け取った彼はすばやく目を通して、ため息をついた。
「…あの方にはすべて分かっていたというわけですか」
額に手を当てて、彼は目を閉じる。
「私が嫌がるあの方を無理やり行かせたようなものですからね…」
自業自得だな…
そう呟いてその手紙を手にしていた箱の中に収めた。
「サーラ。それって何なの?」
さっきは所在なさそうに手の中で転がしてたけれど…
「これ、ですか…?」
どうぞ、と手渡されたその箱を開くと、指輪が入ってる。
「これって…もしかして」
婚約…指輪?
「あの前日に手に入れておいたのですよ…
戻ってきたときに渡そうと思っていたのですけどね」
エメラルドの小さな指輪は光を反射してキラキラと輝いている。
綺麗…でも、これを付けるべき彼女は…
そう考えると、何も言えなくなってその箱をサーラに返した。
「ただ…あの方が生きていることはこれで確実になりましたね」
「えっ…?」
彼の言葉の意味がわからない。
「手紙に“人として生きることになると思う”とありました。
生きていれば…失われた記憶も魔力も何かのショックで戻るかもしれません。
もう戻ってこないと諦めるのはまだ早いですね」
そういう考え方もあるんだ。
目から鱗が落ちたような心地になって、少し気が晴れたような気がする。
「待ちますよ、私は」
そう宣言したサーラの目はさっきまでと違って力のようなものを感じた。
強いよね…
私も、エアトルとトラップが戻ってくるまでこんな風にいられるよう頑張ろう…
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