すべての始まり19〜再び始まり〜


 エアトルがそこまで語って、ため息を付く。
「…エルディアは明日から変わるだろう。
 父上も近いうちにあの子へ王位を譲るつもりらしいしな」
 ちょっと引っかかる事があって聞いてみる。
「ねぇ…ソルティーたちは?」
「あぁ、一応…団長位の剥奪は無くなったが…
 明日サーラがあの子たちと秘宝を取りに行く事になっている」
「秘宝?」
「私にもそれが何なのかわからん。
 そもそも物体なのか魔法なのかもさっぱりだ」
 “実際にはあるのかどうかも、分かったもんじゃないな”
 そう続ける彼。
「失敗…したらどうなるの?」
 恐る恐る聞いて見ると、腕を組んだ彼はさらっと答えた。
「何もないんじゃないか。
 父上の事だ。元々すべきではない命令だったとしても、騎士団を率いる3人全てが違反したものを、
 何もなしで戻す事は出来なかったのだろう」
「そう、それを聞いてちょっと安心した」
「例え、何かしようとしても、あの子が邪魔するだろうしな」
 声だけ聞くと不機嫌そうだけれど、口元は緩んでいる。
「よかったね、あの子が帰って来て」
 そう言った私を、苦笑いを浮かべて見る彼。
「“よかった”だけですめば、それこそ良かったのだがな。どうやらこれからは多いに荒れそうだ」
 嫌な予言を残しつつ、彼は“帰る”と、いつもの様に浮かび上がった。
「今日はどうしても、謝っておきたかったから…変な時間に来てすまなかった」
「いいわよ、いつものことだし」
 “まともな時間に来た事なんてほとんどないじゃない”と続けると、彼は考え込む。
「…次からは気をつけるようにする。
 お休み、フェリア」
「おやすみなさい」
 テレポートで即座にエルディアに戻る事だって可能なのに、彼はいつもFlyで飛んでいく。
 それが、彼の礼儀だと知ったのは…ごく最近の事。
 “緊急事態やよっぽど遠い場所ならともかく…目の前で相手の姿が消えるなんていい気分がしないだろう?”
 それが彼の言い分。
 本当に変な所で几帳面なんだから。

 日記をパタンと閉じて、外を見る。
 トラップが戻ってきて2年が経った。
 エルディアではエアトルが言ったように、彼女がまもなく女王として即位して人間の姿も今ではそれほど珍しくなくなった。
 一方“冒険者として危険な事に首を突っ込む”のを止めたトラップ。
 それを「いつまで続くやら」とこぼしていたエアトルは、元々王位継承者だった事もあって彼女に心得を叩き込んでいる。
 ソルティーやフェイルスはそれまで通り、騎士団の中核として活躍しているし、
 サーラも…騎士団長として以外に、トラップが戻って来た事で“再び守護騎士としての役目を与えられた”と嬉しそうに話してた。
 彼女が記憶を失った事でトラップとサーラとフォルクの3人はまた振りだしに戻る…かと思えば、そういった訳で…
 例え、彼女が前と同じでサーラを選んだとしても、
 “同じ赤の月の力を持つのは自分1人なんだから、それで満足・・・”と思ってくれるようになればいいんだけどなぁ。
 なんて思いながら、赤の月を見上げると、一時は奇妙な色に変化していたそれも、元の光を取り戻している。

 澄んだ蒼闇の中、2つの月が織り成す綺麗な紫に明日はいい事が起きそうな気がしていた。




これで、この物語は一度終わり…また始まります(ぁ
フェリアが見てきたエルディアは変化の一番激しい時期でした。
この後、トラップは冒険者復帰を果たすわけですが、連れ戻しに行くエアトルたちももれなく引っ付いて行きます。
それを待つのがフェリア。
彼女には“申し子同士の繋がりはそう断ち切れるものでは無い”と分かっていて、エアトルをあえて自分から送り出してます。
自分の事を気にして、彼が彼らしくなくなるぐらいなら、待っているほうがよっぽどマシというのが彼女の考え。
シェアラの存在で、それだけの余裕も生まれた訳ですね。
16話で彼女が疑問を抱いた“存在意義”…それは、彼らの帰る場所であり続ける事。

【追加】以前、1〜18話にあった後書きは、続けて読む場合に邪魔なようなので一時削除しています。


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