■ 火の王子と水の王女 ■


 父に黙ってエルフの王子の元を訪れるダークエルフの王子。
 いつもの事ではあるけれど、自らがエルフであった事すらも呪うほど彼らを憎む王に知られれば、
 彼が最愛の妻の忘れ形見であっても容赦しないだろう。
「だから…これは私たちだけの秘密だ」
 エルディアの王子、ジョメルはそう言って笑みを浮かべる。
 偶然“外”で知り合った彼ら…今でも内にあっては稀有な存在である友人同士。

 奇妙なほどに気が合う2人でもお互いの立場を隠していたのだが、それを先に崩したのはジョメルだった。
「実は…」
 明かしたのは、彼がエルディアの王となる準備期間が近づいた時。
 父王であるシェルヴィアンは未だ健在だが、彼らの代替わりは何百年もかけて行われるのが常だった。
「君は、エルディアの王子だったのか」
 それを知ったフラウエルは、自分が現ダークエルフ王の息子である事を言わざるをえなかった。
 自分の母を唯一救えたはずだった者を母親に持つこの王子に。
 恨み言を言うためではなく、この後も彼と付き合って行きたいと思ったからこそ…
 サッと表情を変えたジョメルの喉の奥から搾り出されたのは“母を許してくれ”との謝罪。
「君の父が…闇に飲まれたのは母のせいだと聞いている」

 ダークエルフ王がまだエルフだった時、彼は救いを求めてエルディア王宮に駆け込んだ。
 しかし、女王エルアラは不在だった。
 水の力を有しながら、風の様に自由で、誰にも縛られぬ魂を持つ赤き申し子。
 知る者は知る…彼女がかの魔竜を封じるためにエルディアを離れていた事を。
 かくして、1つの命が尽き、幼い我が子を腕に彼は祈る。
「復讐する力が欲しい…!」
 その想いは聞き入れられ、その身は徐々に闇色へと染まっていった。
 憎しみを力に他のダークエルフたちをまとめ国を作り上げた王。
 夫を迎え王妃となったエルアラはそれを暗然たる思いで見つめて来た。
 あえて、中核をなす彼と相対さなかったのは、救うことが出来なかった事に対する罪悪感からかもしれない。

「責めているわけじゃないんだ。
 ただ…君が正体を明かしてくれたのに、黙っているのはフェアじゃないと思っただけだよ」
「フラウエル…」
 白い肌、若葉色の髪。
 ダークエルフとはおおよそ信じがたい外見の持ち主は相好を崩した。
「もうすぐ、また子供が生まれるんだろう?そんな顔をしていたら、変に思われるぞ」
 快活な笑い声を響かせて、彼は席を立った。
 どこへ行くとも言わずに席を立つ事が帰る合図…
「1週間後…私の住まいに来てくれ!」
 王宮に来てくれとも言えずに、ジョメルはフラウエルの背中にそう言葉を投げかけた。
 振りかえり、手を振った直後に彼はふっと宙にかき消えた。
 彼の領域、ダークエルフの王国フェルアへのゲートを開いて。

 新たな水の申し子の誕生で沸き返るエルディア王宮。
 誘われて来てはみたものの、親子水入らずを邪魔するわけにもいかず、フラウエルは手持ち無沙汰だった。
「来いって言われて来たはいいけれど…手伝える事なんてないしなぁ…」
 澄み切った夜気の中、歩く彼の目に飛び込んでくるのは、空高く輝く月と同じ色…鮮やかな赤。
 軽やかに揺れる髪に彼は呟いた。
「水の…申し子?」
 浮かれきった王宮の喧騒もここまでは届かず、微かな声を聞きとがめた彼女は振りかえった。
「あなたは…」

 フラウエルとシェルミナ
 2人の出会いは必然だったのかもしれない。
 ダークエルフの王子とエルフの王子
 本来ならば相成れぬはずの2人が友となったように、王女も…




何となくまとまりが…というよりも、本当はまだまだ続きがあって、そこまで書かないとタイトルと合わないという(笑)
“始まり”でエアトルの暴走を止めなかったジョメルは、今や本人同士しか知らない事ですが、
こんな風にフラウエルと友人で、他にも色々と接点があって。
もし、エアトルの暴走がダークエルフにでも及んだとすれば、彼はどうしていたんだろうと頭の端でちょっと考えてみたり…
フラウエルのほうは敵対する事になっても、恐らく表面的には気にしてないように見えると思えます。
実際、ジョメルの娘であるトラップとは一時的にとはいえ、敵対関係になっていたわけですから。

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