Passion


---- 8月31日 ----
「浮気者」
 憮然とした顔のフレイア様。
 お茶を飲みながら向こうでの最近の話をしている時の事…
 突然“女性の名前が多い”と言って続けたのがさっきの言葉。
「浮気って…お話しているだけじゃないですか…」
「フォーチュンで女の子を膝の上に乗せたのはっ?」
 ますます進行する不機嫌モード。
「彼女はリーナより年下なんですよ」
「年下で当たり前じゃない、私たちと違うんだから」
 ぷく〜っとむくれてそっぽを向く。
「娘より年下の子に泣かれて放って置けとおっしゃるんですか?」
「誰もそんな事言ってないじゃないっ」
「なら、どうしろって…」
 ため息をつく私を彼女は「う゛〜」という唸り声を上げて睨み付けた。
 ぎゅぅっと握り締めた手がぶるぶると震えている。
「…いいもん!!私だって浮気してやるんだからっ!」
「なっ!!」
 立ち上がった私にベ〜っと舌を出して、フレイア様は素早く転移陣を形成して向こうの世界へ行ってしまう。
「な…何でそうなるんですか…」
 茫然自失…
 咄嗟に追いかけることも出来ずにそこに立ち尽くす。

---- 9月1日 ----
「可愛い女のこに囲まれてるとかで心配してましたよ(*ノノ」
 ネルさんの言葉にがっくりと肩を落とす。
 思った通り、あの後に色々していたみたいですね…
 分かりやすいと言えば分かりやすいですけれど、あまり当たって欲しくなかった予想が的中してしまったものです。
 とりあえず…今日はもう寝よう。 

---- 9月2日 ----
「今度ね〜デートするの♪」
 何の前触れもなくやってきたフレイア様は半分寝ぼけている私に笑顔で告げた。
 前に☆海で感じた嫌な雰囲気、それを増大させたこの間の浮気宣言。
 更に今回の報告に加えて、その後の一連の発言。
 しかも、疲れきって眠ってしまった隙にあの方はいなくなってしまってましたし…
 もうダメかも…

---- 9月3日 ----
 デート相手と名指された人物に話を聞いてみようと☆海へ。
 どうやら彼は私とあの方との関係に気づいてないらしく、親身になって話を聞いてくれるもので複雑な心境…
 今ここで「その相手はあなたですよ」といったらどんな反応が返ってくるのかと興味を持ってしまうぐらいに、
 この事がまるで他人の話にさえ思えてきた。
『浮気してェんじゃなくて、寂しいから気付いて欲しいンじゃねェのか?』
 その話の中で彼は言っていたけれど、果たしてその通りかどうかは…
「はぁあ…自信無い」
 結婚する前もそうですが、フレイア様が持ち前の人懐っこさと無邪気でもって、
 今でも数多くの人に愛される存在である事には変わりなく、
 私に分かるだけでも5人…未だあの方に思いを寄せている男が他にそれだけいるんですよ?
 その中で何故私が選ばれたのか分からないし、これからもずっとそのままでいられるという自信も根拠も全くなくて。

---- 9月4日 ----
 ゆっくりと微睡みの中から浮上する私にフレイア様からのメッセージ。
『おはよー7塔行ってるー』
 ごくごく普通の口調。怒った様子もないし楽しげな風でもない。けれど…
 7塔でこっちこっちと手招きされて辿り着いたのは炎の塔の一室。
「改装手伝って」
 ちらっと見た表札の名前は…フォルク様ですか。
 あの方に心惹かれている男性5人中での筆頭を上げるとすれば、間違いなくフォルク様。
 それが分かっているだけに何となく落ちつかない。
「サーラはほとんど兄さんと行動してるでしょ?」
 私の考えた事が分かったらしく、フレイア様はサークルの中に突っ込んでいた顔をこちらへ向けて言った。
「まぁ…一人はあちらの動向が分かっている方が便利ですからね」
「うん」
 こくっと1回うなずいて、彼女は持っていた物を全部サークルにしまいこむ。
 やっぱり…普通ですよねぇ…
「で、どこに何を作るんです?」
「ん〜…ここにサークル一つ」
 周囲を見まわしてから、部屋の中央に立ったフレイア様はトントンっとその場を踏みしめた。
 他はどうしようといった風に再びきょろきょろするのを眺めつつ、私はリソースを調達に出かけ、
 持ち帰ったそれを手にまずは部屋の中央にサークルを一つ。
「わぁい♪」
「後はどうするんです?」
 私が出かけている間に決めているかとも思いましたけれど、まだの様で…
「ん〜どうしようかなぁ…」
 閉まったサークルに座って、ぶらぶらと足を揺らし考えるフレイア様に考え方を掲示してみる。
「このままサークルだらけの部屋にするもよし、もう少し遊ぶもよし…」
 言いながら自分でも考えてしまったらしく…触れた耳に痛みが走った。
「あいたっ」
「だいじょぶ?」
 サークルから飛び降りて、心配そうに覗き込むフレイア様には“大丈夫”と頷いたものの、
 触った時の痛みよりも気になった違和感に、部屋にあった鏡を手に取った。
「膿んで腫れてるなぁ…」
 それを聞いて、フレイア様は眉をひそめる。
「ねぇ、あの癖のせいじゃないの?」
 フレイア様が言うのは“考える時に耳を引っ張る癖”
 “たぶん”と返事をしながら、手をやった私を“迂闊に触らない方がいい”とフレイア様が止めにかかる。
 気にせずそのままつぶしてしまうと“ぶちん”という音が耳元でなって痛みは治まる。
 音がなった時に痛そうな顔をしたって事は…フレイア様にもその音が聞こえたんでしょうね。
「考える時に耳触るのは、ホント何とかした方がいいよ…って人の事は言えないけど」
 言われて“元々あなたの癖なのに、いつの間にか移ってしまったのかな…”と頭の隅で考えた。

『開けろ(^^メ』
 前置きなしで送られてきたプリブ。
 フォルク様…あなたの名義なんだから、自分で開けられるでしょう。
 忘れているのか、私に開けさせないと気が済まないのか、自分で開こうとする気配が一向にみられない。
 仕方なしにロックを解除すると、待ってましたといわんばかりにフォルク様が入ってきた。
「おはよう」
 フレイア様に対しては5割増の笑顔も、私の方へと向く時には引きつっている。
 “何でお前がここにいるんだ”と言わんばかり表情。
「朝っぱらからやけに不機嫌そうですね」
「眠いんだ」
 不機嫌そうでも改装途中の部屋を見て、事情を察したのかフォルク様は自分が閉めていたサークルを開けて…
「寝ます」とその場にごろっと横たわる。
 フレイア様はと言えば“これで好き勝手に変えられる”とウサギの様に部屋の中を跳ね回りながら、
「こことここに、木とか水とかおいてみたい」と部屋の東側の2スペースを指差した。
「木と水ですか…」
 我々のStepの部屋がそうなんですけれども…
「狭くないですか?」
 うーん…と考えた彼女は「狭いかも…」とぽつり。
「それなら、水と花はいかがです?」
「生えるの??」
 目を瞬かせるフレイア様に頷く。
「んじゃそれで、アイテム運んでるから作ってきて」
 にこにこと微笑みかけられて、何の疑問も抱かずリソースを作りに行ってしまうあたり、やっぱりあの方に甘いのかな…

「とりあえず…ぶち壊しますか」
 指定された2ヶ所のサークルを削る。
「水と植物なんだけど…」
「どっちをどう配置します?」
「北が植物かな」
 ふむ…
「じゃ、南に水、と」
 うんうんと頷くのに、腕まくりをして…まずは水を撒く。
「わぁい♪」
 次にPlantで…
「草が生えた♪」
 うっすらと緑萌える一角に興味津々で座り込むフレイア様。
 幼い頃にもそうやってありの行列を延々眺めていた時がありましたっけ…
「あぁ…そうだ」
「ん?」
 ふと思い出して、フレイア様へ提案してみる。
「そこのポストはフォルク様の名義でしょう?すぐ北のサークルもあの方名義の方がいいですよ」
「ふみふみ」
「他はあなたで」
 うんうんと頷いたフレイア様の眉間には仕草に似合わずぎゅっとしわが寄っている。
「真正面は密かに兄さんが怖い」
 うっ…確かに…
「扉二つに出来ないかなぁ…」
「それは無理でしょう」
 苦笑いを浮かべて答えた直後に思ったのは…
 “とりあえず…これで一段落ですよね?”という事。




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