□ 1+1の住む家 □
2)Sword of Magius
自分が描いた分は引き受けるというあの子の飼い主を置いて、新世界へ出かけようと外に出た。
本当は私1人の散歩のつもりだったんだけど、後ろからねこがちょこちょこくっついて来る。
「…何でついてくるの?」
「面白そうだからでし」
“私はあんたの好奇心を満たすためにいるんじゃないわよ”
出かけた言葉をぐっと飲みこむ。
だって、子供相手に大人気ないじゃないの。
「じゃぁ、あんたの頭でも肩でもいいから乗せなさい。歩幅はそっちの方が大きいんだから」
頷いた彼女の肩にひょいっと乗せられ、私は周囲を見まわした。
レンファやカミュの肩よりずいぶん低くて、見晴らし悪いけど…まぁ仕方ないわね、子供なんだし。
で、乗り心地は最悪。
跳ねるように歩くものだから、がったんがったん上下するし、放り出されそうになるし。
うぇ…肩酔いしそうだわ…
「…あんたもうちょっと静かに歩けないの?」
「みゅ?」
もう見慣れた表情。
「あぁもう分かったわよ。聞いた私がバカだった」
というよりも…ねこって静かに歩くものじゃないの!?
「にぁ?」
急に立ち止まったかと思うと、南の方をじっと見た彼女。
「どう…したの」
吐き気を押さえて言った私に能天気な声が返ってきた。
「港町が開いてるみたいでし」
あぁ、そういえば、一昨日来た時には閉まってたわ…という事は昨日か今日に開いたってことよね。
「行ってみるでしっ」
ぴょこたんぴょこたん…ウサギのように走りだすねこと、その肩で振り落とされまいと必死になる私。
“美しくないわっ!”
心の中で叫びつつ、服にがっちり爪を立てて持ちこたえた。
「ちょ…ちょっと降りる」
町の入り口でぐったりした私を、ねこは“大丈夫でしか?”と覗きこんだ。
“誰のせいでこうなったと思ってるのよ…!”
でも、そう言う気力もなくて、つぶれたヨモギ大福みたいにべったりと地面に広がった。
「しばらくほっといて」
自慢の毛皮が汚れるのは嫌だけど、この際贅沢は言ってられない。
気持ち悪いのがわずかにでもマシになるなら、ちょっと汚れるくらい我慢するわ。
少し気分がよくなると、潮の香りが気になってきた。
「さすが港町。塩っ辛い匂いがするったら」
魚好きのねこにはまさに天国かもしれないわね。
“ふぅ…”とため息をついて起き上がると、ねこがものすごい勢いで走りよって来た。
興奮してぶんぶんと手を振る彼女。
「海の見えるおうちがあるでしっ!」
…何だか嫌な予感がするわ。
思った瞬間、問答無用で手の上に乗せられて、その“家”へと連れて行かれる私。
“ちょっと!私はぬいぐるみじゃないのよ!”
叫びたくても、ブレる視界…口を開いたら歯がどこかに突き刺さりそうで黙ってるしかなかった。
「ここでしっ!」
こぢんまりとした家。
入った真正面には大きな窓が二つあって、そこから海が一望…
「ま、趣味は悪くないわね」
嬉しそうに頷いた彼女の次の言葉がなければ、比較的気分よく☆海に帰れたかもしれない。
「お引越しするでし」
やっぱり、そう来たわね。
「あんた…引っ越すって」
…思うがまま生きてるって感じね。
悩みも全然なさそうで、ホントいい身分だわ。
「サークルも1個増えるでしよ」
気乗りしない私を彼女は説得にかかった。
「増えるけど、ここって不便でしょ!」
ゲートで簡単かつ安全に移動できる王都と違って、ここは外を歩いてこないと来れない港町。
どこがそんなに気に入ったのかしら…私は潮風で毛皮が痛みそうなのが嫌なんだけど。
まぁ、お子様の考える事が大人な私に分かるわけもないわね。
「入り口塞がれないでしよ」
「ぐ」
思わず詰まるその言葉。
そうなのよ、あの狭い入り口。太った誰かがちょっと詰まったら、途端に出られなくなりそうなのが困り物。
いくら私が細くて小さくても、道いっぱいに塞がれたらどうにもならないわ。
「仕方ないわねぇ…」
毛皮の問題はお手入れで何とかする事にしてあげる。
2匹揃って、確保していた家へと向かうと空家が1件。
「あれ?みずみーさんたちお引越ししたのかなぅ」
「私が嫌で逃げたのかしら?」
「ふみ…」
ちょっと、否定しなさいよ。
少し不機嫌になりながら、ポストを見ると“引っ越しました”のメッセージ。
「逃げたわけじゃないみたいね」
まぁ、いいわ。まずは人の引越しより自分の引越しだもの。
短い間だったけど自宅だった場所から荷物をせっせと運び出した。
ねこの飼い主が訳の分からない物を溜め込んでるから2日しか経ってないのに手間がかかるったら。
「お魚さん取れるかなぅ…」
運ぶ途中、さっそく食べ物に興味を示した彼女。
“お昼寝とお散歩、それとおやつが大好き”と聞いてるかららしいと言えばらしいけど、そんなに食べて太っても知らないわよ。
「ねずみさんはお魚さん好きじゃないでしか?」
何度言っても直りゃしないから、口に出して言う事はなくなったけど、私は背中の縞模様も愛らしいハムスター!
そこらをちょろちょろしてるねずみと一緒にしないでちょうだい。
この麗しい毛並みを維持するために、食べ物にも気を使ってるんだから。
「私は肉や魚より野菜が好きだわ」
あぁ、そうそう。種置き場も作らなくちゃいけないわね。
美味しいナッツ、美味しい種。野菜もいいけど種子類はもっと好きよ。
運び込んでから気がついたのは、数軒建ってる他の家の住人。
「ちょっと、あんた。周りに誰が住んでるか確かめた?」
ぶんぶんと横に首を振る彼女を横目に、頬袋に入れておいた荷物をざらざらとサークルに開けた。
「危ないのがそばに住んでたら、入り口が塞がれるどころの問題じゃないわよ」
「にぅ…」
うなだれてしおれる彼女に再度ため息。
「確かめてくるからそこにいなさい」
外に出て数を確認すると、思っていた以上に小さな港町。
「ふんふん。そんなに数ないわね」
でも、その数少ない家を順に回り終える頃には“これは別の意味で危ないかもしれないわ”と思った。
何故って、一部☆海住人の縮図だからよ。
もちろん善良なる動物愛護家もいたけれど、それ以上に…
「どうだったでしか?」
広げた布の上にぺったり座ってる彼女に一つ頷いた私は“大丈夫…と思う”と言った。
「怖そうな人がいるでしか?」
「そうねぇ…床下の住人と古風なねこ、それにライオンがいるわ」
途端に、不安で胸いっぱい今にも泣き出しそうって顔が明るくなった。
…真ん中の住人は私にも分かるけど、他はどうかと思うわ。
「いいこと、あんたはねこ仲間の家にだけ遊びに行きなさい」
「何ででしか?」
何でも聞きたがりメモしたがりの、この子のメモ帳。
分厚くなってるそれを見たら、でたらめな事がいっぱい書きこまれていた。
で、それらを教えたのが、問題の2軒の住人。
これ以上みょうちくりんな事を教えられたら、一緒に住む私が大変なのよっ!
後々困らないためにも、少しは釘をさしておかなきゃ。
…ホント、手が焼けるんだから
レンファさんカミュさん呼び捨てすみません。
グラン小説でのイメージ重視で書いた結果こうなりました○| ̄|_
基本は愚痴と命令口調…(うわ〜可愛げない(;
それから、新しい家の楽しい周辺住民の方々(笑
どこまでもマイペースなねこと小生意気なねずみ、2匹ともどもよろしくお願いします。
ビオラには楽しい日々、アルディラには悩ましい日々が待ちうけてそうですが…
でも、まさかあんなに固まってたなんて…(’’;
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