1+1の住む家


1)Star ocean

 私(わたくし)はアルディラ。
 サファイアブルーの毛並みも美しい、由緒正しきジャンガリアンハムスターの1匹。
 姉妹はたくさんいるらしいけれど、確実に分かっているのは姉と妹の2匹。
 姉はガイアースでのんびり過ごしていて…妹とは顔を合わせた事ないのよね。
 どこか遠くの世界で、体を鍛えてるっていうのは聞いたんだけれど。

 私はと言えば、魔法使い集団=M=団に所属。
 そんじょそこらのハムスターとは更に一味違うのよ。

 そんな私が今住んでいるのは☆海。
 色々な生き物の他にも精霊を召喚できる素敵な世界。
 どこかのねこより勇気あるこの私。
 召喚しすぎて、魔力がガンガン落っこちてるけれど気にしない。
 下がっても上げればいいのよ、上げれば。

 今日は大量の方眼紙を引っ張り出すねこを、定位置のロフトから見かけた。
 誰っ、ごちゃごちゃと散らかった屋根裏部屋だろうって言うのは!
 私のいるロフトは、いる時にいつも掃除しているから清潔その物(歩くうちに自前の毛皮がゴミを拾って行くらしい
 失礼な事言わないで欲しいわ。
 
 まぁ、それはさておいて、私は下でちょろちょろ歩き回る彼女に声をかけた。
「そんなに紙を出してきてどうするの」
 すると彼女は紙を抱えたまんまで私を見上げて言った。
「☆海の地図を作るんでし」
 そういえば、前にも開拓地マップってのを作ってたわね。
「ふぅん…でも、一度にそんなに抱えて行く必要はないんじゃないの」
 腕いっぱいに抱え込んだ方眼紙。
 そんなに持っていたらかさばるわ、風で飛んでいくわでマッピングどころじゃないでしょ。
 じ〜っと紙を見た彼女は、こくっと頷いて数枚を手にして出かけていった。

 まったく…手が焼ける子ねぇ。

 しばらくして帰ってきたと思ったら、今度は飼い主に頼み事をしているみたい。
「ここの地図を描いて来て欲しいんでし」
 机いっぱいを覆う地図。指はまだ描かれていない広大なエリアを差していた。
「うーむ…」
 何となく乗り気ではなさそうな飼い主。
 そりゃそうよね。昨日痛い目にあったばかりなんだから、あまり近寄りたくないのはよく分かるわ。
 私なら「行きたくない」って言うけれど、この飼い主はねこには甘いみたいだから最後には引き受けるわね。
 だって、行かなければ…

「嫌でしか?なら自分で行ってくるでしけど…」
 ほーら来た。
「わ、待て。私が行く」
 予想通り、慌てて引き受けた飼い主。
 こうなるのが分かってて言ってるんじゃないか…って気もするけど、
 普段からぽけ〜っとしてて、なーんにも考えてなさそうだし、それはなさそうね。
 もっとも、素で飼い主を自在に操る方が、分かっててやってるよりも末恐ろしいのかもしれないけど。

 飼い主が出ていった後、ねこは描いて来たばかりの地図を切り貼り。
 はさみで切って糊をつけては、大きな紙にぺたぺた貼り付けているんだけれど…あ、はみ出た。
 あ〜もう、ズレてるじゃない…
 って、今度は切り損なってるっ!!!

「ちょっとっ!作業が雑よっ!」
 思わず叫んで、私は指をびしっと突きつけた。
「にぅ?」
 私の方へとむいた顔。
 きょとんとして何が何だか分からないって感じ。
「“にぅ?”じゃないわよ“にぅ”じゃ!!それじゃぁきっちり描いて来た意味ないじゃないのっ!」
 ガミガミ言うのは嫌だけど、こんな調子じゃせっかくの地図が台無しよ。
「もう、ちょっとそこに並べなさい」
 紙を順に並べさせ、ロフトから飛び降りた私は魔石の詰まったサークルから取り出した目当ての物を開放した。
 
「Air blade!!」
 すぱんっと小気味良い音を立てて、切れる紙。
 得意の火属性魔法だと燃やしちゃうだけだから、今回は特別に風魔法。
「綺麗でし〜」
 彼女は目を丸くして、切れたばかりの紙を手に取った。
「手を切るかもしれないから気をつけなさいよ」
「あぃっ」
 手をひょいっと上げて、返事だけは元気。
「あんたも魔法使いなんだから、少しぐらい効率のいいやり方考えなさいよね」 
 こくこく頷いてるけど、どこまで分かってるのか知れたものじゃないわ。
「後!糊は少なめにつけなさい。外にはみ出て見苦しいわ」

 私から見ると多少は難ありって気はするけれど、何とか見れる物が出来あがった。
「まぁまぁいいんじゃないの。後はあんたの飼い主の地図を足せば、地上は完成ね」
「あぃっ!」
 にこにこ笑ってる彼女の手は糊でべたべた。
「あんた…手洗ってきた方がいいわよ」
 直後、外へ出ようとするのを私は引きとめた。
「ちょっと待ちなさいっ」
「にぅ?」
 くるんとこっちに向いて、またもやぽけっとした表情。
「そんなべたべたの手で扉に触るんじゃないのっ」
 リソース箱の中から水を取り出して手招き。
「ほら、さっさと手を出しなさいよ」
 素直に差し出された手の上、リソースに込める魔力を調整してちょろちょろと水を出した。
「ありがとうございまし」
 ホント…どこまで抜けてるのか分かりゃしないわね。


 飼い主も戻って来て、地図はかなりの量。
 性格なのか、やけに細かく描かれてる事と言ったら…
 まぁ、私が描いてもこれぐらいになるでしょうけど。

「ここまで出来たでしっ」
 ねこがついさっき台紙に貼り終えた物を見た飼い主は微妙な表情。
 どことなく歪んだ地図。普通の人なら当然の反応ね。
「…まぁ、よく頑張ったな」
 “わくわくと見上げる視線に根負けしました”って、証明しているのは引きつり加減の笑顔。
 気持ちが分かるから、私は笑いをこらえて上で見物してた。
「特にこの辺り、ずいぶん綺麗に切ったものだな」
 トントンっと叩いたのは、私が魔法で切った部分。
「ねずみさんが切ってくれたでし」
 途端に私へと意外そうな視線を向けた飼い主。
「私は見るに見かねてちょっと手伝っただけ。貼ったのは彼女よ」
 いきなり話を振られびっくりしながら言うと、飼い主はいつもの苦笑いを浮かべた。
「それなら後は私が引き受けるか」

 そうそう、それがいいわよ。
 あの子に作らせたんじゃ、不恰好なマップが出来あがっちゃうわ。

 口には出さないで、うんうんと頷いた。



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