□ これまでと今・☆海 □
☆海、Star Ocean。
私にとって思い出深い世界だ。
基本的には個人行動を取る私が初めて人と組んでクエストに挑んだのもこの世界。
多くの知り合いを得たのもこの世界…
夢見とは似ていて異なるここに、また別の安らぎを見出していた。
ボーダーにいた私は、風音に嘆きのような響きを感じていた。
初めはもうすぐ長き眠りにつくこの世界を憂いての物だと思っていたが“違う”と気付いてその声に耳を傾けた。
眠りにつくは大いなる海
深く広く果てなく続く紺碧の海
数ある生命、想いを生み出せし汝が再び目覚めるのは永久に…
最後の言葉を聞かずに私はボーダーを飛び出した。
続く言葉をその響きから…伝えられた言葉から理解してしまった。
「☆海まで沈むなんて!」
空耳だと、勘違いだと思いたかった。
可能な限りの速さで☆海まで走って、セントラルの看板にもたれこむ。
生死を分ける事以外でこんなに必死になったのなんてどれほど昔の事だったか。
上がりきった息を整え、セントラルをぐるりと見まわすと、見慣れぬ…
“22日の夏祭りを最後に☆海沈没したいと思います”
そう書かれた看板が立っていた。
夏祭り…
ついこの間にSyarumさんやArtemisさん、Robomaruさんと話した事を思い出す。
一日中イベントをやろうというSyarumさんの提案に「夏祭り!」とRobomaruさんがはしゃいでいる。
私もねこに浴衣を着せてうちわを持たせて…といかに楽しもうか考えていた。
“花火も打ち上げよう”ということになって、そこにいた全員で上げ方を考えたけれど、大声での上げ方がなかなか分からず、
「みんなで並んで打ち上げて“ナイアガラ”」とか「あちこちで上げるしかないかな」とか…
最後は無事打ち上げ方法が分かって「色にバリエーションをつけよう」という事にもなったな。
あぁ、そうそう、Robomaruさんの打ち上げた花火も可愛かったなぁ。
出店やジャンボにゃんばーずの話や…
本当に色々な事を考えて、あの時は夏祭りが☆海の最後を飾る事になるなんて思いもよらなかった。
虚ろな心のまま家へと向かう。
地下にあるこの家は本来ならば陽の当たらない暗い部屋のはずなのだが、
家の西…泉の上の天井にぽっかり空いた穴から光が漏れ、それが泉に反射する事で室内は意外に明るかった。
何よりも、その泉の中央に据えられた魚のオブジェが私は好きで、西側の壁の1つをあえてガラスにしていた。
…そのオブジェが見えるように。
ぺたりと座ったすぐそばのサークルから箱を取り出す。
3つの指輪の入った箱。後1つ分入る余裕がある。
「…結局3つなのか4つなのか分からなかったな」
この世界の精霊…地・炎・水の召喚リング。更に風があるのかないのか、世界中を探しまわったものの分からない。
これも、ここから持ち出してしまえばただの指輪と化してしまうのだろう。
箱を手にしたまま部屋を見まわした。
こうなった以上はここの物も全て持ち出さなくてはならないのだろうが…あまりにも思い出がありすぎて、その気にはなれない。
何もやる気が起こらず、ぼんやりと外を眺めていると、隣の扉からサーラが入ってきた。
いつもと変わらない笑みを浮かべながら、私より少し離れた位置に座った。
何も言わないのは…多分、彼の配慮なのだろう。
更にはねこまでやってきたけれど、何も言う気になれない私はただただ魚のオブジェを眺め続けていた。
…空っぽの頭で、ふいにフェリアの事を思い出す。
あの子を失って自分自身も見失っていたあの頃、彼女はずっと私をいい方向へ導こうとしてくれていた。
普段は向こうに残して、こんな時にばかり頼る私は最低なのかもしれないけれど…無性に彼女の声が聞きたい。
「エルディアに戻る」
誰に言うわけでもなしに呟いて、印を結ぶ。
「“地よ揺るぎ無きその力で、巡りし世界を我が前に”」
右に左に振るう手の指先に光が集まり、宙に文様を形作っていく。
何度この呪文を唱えたかわからない。
きっとこれからも幾度となく唱えていくであろう…私がこの世界に来る限りは。
「“風よ空の鎖を解き放ち、我が時我が地への扉を開け”」
完成した転移陣から向こう側の魔力が流れ込んでくる。
開いた空間…その向こうへ飛び込み、いつものように森の中に立っていた。
「…人間の世界は…長い間回った時もあったのだがな」
そう口にして、自分がまだ若かった…いや、幼かった頃のことを思い出していた。
今のあの子のようにエルディアを飛び出したことがあった。
「人間は素晴らしいのよ」
祖母のその言葉を信じて、何度裏切られても諦めずに何百年も人間の世界を見続けて…
自分で生み出したものを自らの手で滅ぼしていく彼らに絶望した。
“世界がいくら移り変わっても人間そのものは変わらない。
変わらないからこそ、人間の世界はいくつも生まれては消えていく”と…
そんな思いを抱えてエルディアに戻った私を待ち受けていたのは祖父の死、それに妹が行方不明という事実。
すべては人間が原因だった。
自分たちの世界のみならず、私が大事に胸の奥で抱えていたものまで無残に打ち砕いた彼らを許せなくて…
けれど、あの子が戻ってきて…すぐ外に飛び出す彼女を追ううちに、その気持ちは薄れていった。
でも、それは薄れていただけで、人間を嫌う気持ちを失ったわけではない。
失ったわけではなかったのだけど…今は…
一気に言い連ねた私を彼女は笑みを浮かべてみている。
「今のあなたがあるのは、そこで出会った人たちのおかげなのね。
だから、その世界を失いたくない。しかも、こんな急に消えるのは嫌だ…そう言いたいんでしょ」
「…あぁ」
ずばりと言い当てられて、それだけを口にした私にフェリアはことさらの笑みを浮かべた。
まるで、理解のいい子供に対して喜ぶ母親みたいだな。
「消えるのが避けられないのなら、ギリギリまで…後悔しないように、ありったけの時間をそこで過ごしなさいよ。
なんなら、こっちに戻ってこなくてもいいわよ」
あまりに乱暴といえる提案に絶句する。
「いや、だが、それでは…」
「そもそも、あなたって自分にも厳しすぎるわよ。
トラップを見てみなさいよ、あなたと同じ最高司祭としての仕事に、更には女王としての仕事があるはずなのに、
あっちへフラフラこっちへフラフラ…全く、落ち着きないったらありゃしない」
確かにそれはそうなんだがな。
「だからって、私まで…」
さすがにそれは示しがつかないのではないだろうか…
そう続けようとする私の言葉に被さるようにフェリアは言いきった。
「いいのよ。先代の風の申し子…あの隠居に押し付けちゃえば。
だって、あなたが生まれたからって風を放棄しちゃったんだもの、こんな時ぐらい無茶言ったって文句は言えないはずよ」
隠居…そう形容された彼が大嫌いな書類との格闘を押し付けられ、悪戦苦闘する姿を思い浮かべて吹き出す。
「本人に言ったらさぞやへそを曲げるだろうな。それにしても、隠居か…言い得て妙だな」
ひとしきり笑った後、フェリアが楽しげに私を見ているのに気づく。
「どうした?」
「ん〜…柔らかくなったなぁって思って」
柔らかく…?
「向こうの世界で申し子の力から解放されてるせいかしら…今のあなたからは張り詰めた感じがないのよね。
前は常に力を制御しなくちゃならないっていう、ピリピリした空気があったもの」
“全く関係のない世界に行くっていうのもいいことなのかもしれないわね”と言う彼女の声には寂しげな響き。
「…フェリア」
いつか…私たち、今の申し子がこの世界から永遠に離れる時、その時には君も連れて行く。連れて行けるようにしてみせる。
そう続けようとしたところに、扉を叩く音。
昔の癖で“入り口”からではなく“テラスの扉”からここに来ていた私は慌てる。
「まずい。今になってまで真正面から入ってこないとなると、なんて言われるか分かったもんじゃない」
「どうする?」
慌てふためく様子が面白いのか、にこにことするフェリアを見て、私はぴたりと動きを止める。
「…あー…もう知るか。なるようになれ、だ」
気づけば、沈んでいた気分はスッキリと晴れやか。
本当に…彼女には敵わない。
プレイヤーとしての気持ちはビオラに託して、こっちは設定に沿って作り上げてみました。
一応12日のビオラ日記と13日の日記とを結ぶ意味合いもあります。
1日中イベントに夏祭りだという話をしていて、夜にはなかなかこれない私でも参加できると楽しみにしていたのですが…
“それが☆海の最後を飾るということになってしまう”なんて考えると、複雑な思いがあります。
今回確実に沈む世界…ボーダー・グラン・☆海…ある程度クエストをやったのはボーダーと☆海の2世界。
ボーダーが危険だらけの思い出に満ち溢れてるとすれば、☆海は人との触れ合いの思い出に満ち溢れた世界です。
初めてパーティを組んでクエストをしたのが☆海なら、数名集まって料理を作ったのも☆海が最初。
普通FoodクリエイトLv99なんて無茶苦茶やったのも☆海があってのことでしたし…
PSPサーバ自体が停止するという噂もあって、そうなるとNEVから夢見から全部沈むんだろうなぁと頭の隅で考えてます。
朱蓮沈没の少し前には「いつかは夢見も沈むんだろうな」と口にしたこともありましたが…
不確定とはいえ、そういった現実を目の前に突きつけられると、どうしていいのか分からず途方にくれますね。
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