Snow white


 聖なる夜、クリスマスイブ。
 もう1人の私が生まれ育ったのは、ホワイトクリスマスに憧れる場所だった。
 決して寒くないわけではないのだけれど…雪が降る事はあまりなくて、中途半端に寒いだけ。
「ここは今頃でも雪が降るんだよね」
 赤と青の月が支配する空。ちらちら降り始めた雪を見て、誰に言うわけでもなく呟いてみる。

 向こうで過ごしたよりも遥かに長い時間をここで過ごしたのに、どうしても慣れる事が出来ない純白の12/24。
 もうすでに向こうの世界での家族も、私が記憶している姿とはほとんど違うはずなのに…自分だけが変われない。

 やがて、視界を真っ白に染めた雪を見るのが嫌になって顔を伏せた。
 そうやって、真っ暗になった小さな空間を見つめていると、頭の上に暖かい物が乗せられ…
「熱い熱いっ!!」
 とっさに上がる頭にあわせて、ひょいっとそれを持ち上げたのは兄さん。
「それ…何よぅ」
 涙目で聞いてみたら「作りたてのココア」とすました顔の返事。
 さっきいなくなってたと思ったらそんな物を…
「ひどいよ、熱いよ〜っ」
「眠気覚ましだ」
 私の抗議を受け流して、カップをすぐそばのテーブルに置いた兄さんは、もう一方の手に持っていた物を口に運んでる。
「そっちもココア?」
「そんなわけあるか。あんな甘ったるい物…」
 聞いた私を一瞥してすぱっと。
「甘ったるい物が好きで悪かったねー」
 ふんっ
 鼻息荒くココアに手を伸ばすと、冷え切った手にじんわり暖かかった。
 暖かいココア…とっても甘いのが好きなのは、お母さんの作ってくれたのがそうだったから。
「…ふぇ」
 一瞬忘れかけていたものをまた思い出して、泣きそうになってしまう。
「どうした、砂糖が足りなかったか」
 ぶんぶんと首を振って“違う”って答える。
 そういえば、向こうの世界にいた時は“お兄ちゃんがいたらいいな”ってずっと思ってた。
 今、その願いが叶って兄さんがいて、サーラがいて、大切な人がいっぱい出来て、確実にあの時とは違うはずなのに…
 思い返すこんな夜だけは12歳の時の、人間として生まれ育った私に戻ってしまう。

 ほのかな光の中、ココアを手にしたっきり黙り込んだ私を不審に思ったのか、兄さんが近寄ってきた。
「思い出すのは分かるがな…もうすでに違う時の中で生きてるんだ」
 今度は熱いカップじゃなくて手がのせられる。
 何にも言ってないのに、兄さんにはすっかり筒抜けだったみたい。
「別に忘れろと言ってるわけじゃないが、思い出すたびに泣かれるのは向こうの家族とて本意ではないだろう」
 向こうでの思い出がぎっしり詰まったクリスマス。
 こちらにはない事、それが鮮やかに思い出す原因なのかもしれない。
 でも、こうやってめそめそ泣いていたら、お父さんもお母さんもきっと悲しむ。

「…分かった。来年から笑って過ごせるようにする。でも、今年…今だけ…」
 ため息をつきながらも優しく抱きとめてくれた兄さんは…サーラとは違う安心感があって、
 この人の前でだけは小さな子供に戻って泣いてもいいような気がした。




何だかシリアスっぽい…(
PHIネタではございませんが…たまにはこんなのもありですかねw

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