想いを込めた記憶石


 ご主人様にお届け物。
 いっぱい抱えて久しぶりに☆海の外に出てみた。
 前に“危ないからダメだ”って言われたけど、たまには外にも出てみたいでし
 久しぶりの他の世界は何となく、どきどきしまし。
 特にグラン塔は、前に来た時とあっちこっち変わってて、どこが変わったのか探険してみるでし。

「…ここ、どこでしか?」
 いつの間にか森の中。道があっちこっちに枝分かれ…迷ったでし。
 どれでもいいからって道を選んで、きょろきょろしながら森の中を歩いてたら、向こうから人がやってきた。
「こんにちはーでし」
「こんにちは」
 ずっと前にご主人様から名前を聞いたSeikaおねーさん。
 直接お話した事はなかったけど…夢見でチラッと見かけた事はありまし。
 お話を聞いたら奥の方に用事があって、そこから帰ってきたそうでし。
 そういえば、氷柱があるってご主人様が言ってたなぅ…
 「口コミの情報だけで進むものだから」って教えてもらった後、おねーさんと別れて奥へと行ってみた。
 
 森のつきあたりに、氷の柱がどーんっと生えてまし。
 顔をぺったりはりつけてじ〜っと覗きこんでも、その下にはどこまでも深い闇が見えるだけ。
 どれぐらい下から生えてるのかなぅ…??
 ぺたぺたぺた
 触ってみても、何の変哲もない冷たい氷なのでし。
「む〜…変なところはないでし」
 でも、触ったところには手の跡がいっぱい。
「にゃ…(//w//^」
 ぺたぺたぺたぺた…手形をつけて遊んでいると、身体がふわっと浮かびあがった。
 もしかして、いたずらしたからでしかっ?
「ごめんなさいでし〜っ」
 謝っても、ふわふわ浮いたままで降ろしてもらえそうにないでし。
「どうなっちゃうのかなぅ…」
 怖いからぎゅ〜っと目を閉じて…いつの間にかふわふわがなくなってまし。
 恐る恐る目を開けると、そこは建物の中。壁がきらきらしててとっても綺麗。
 ぺたっと触ってみたら、霜が付いてまし。
「何だかとっても寒い場所でし…」
 ぶるぶる震えてきた身体をごしごしさすって、周りをぐるぅりと見たら、まだ奥があるみたい。
 一歩一歩歩くごとに足音が大きく響きまし。
 でも、怖いって事は全然なくて、何があるのかなってわくわくしまし。

 神殿みたいな場所なのに、何だか似合わない小さな扉。開くと…
「うわぁ…」
 大きな氷柱が上へと向けてそびえたってまし。
 冷たい水に足を踏み入れて近づくと、その中心に人影が見えた。
「この人は…?」
 柔らかく、優しそうに微笑む女の人。
 悲しそうにも見える笑みを浮かべて、祈るように目を閉じてるこの顔はどこかで見た事がありまし。
「あ!王女様でしっ」
 パンデアで見た像にそっくり。
 どこからか中に入れないかなって、氷の周りを一回り。切れ目のないとっても分厚い氷なのでし。
 王女様寒くないのかなぅ…
『・…っ…』
 今何か声がしたような気がしまし。
 辺りを見まわしても王女様とわたし以外は誰もいない…
『…誰か………て』
「王女様でしか?」
 べたっと手を氷にくっつけて、じ〜っと王女様を見ても、それ以上の声は聞こえなかったでし。




「大変でしっ」
 部屋の中を片付けていた私のところに、ビオラちゃんが飛びこんできたのは昼前の事。
「氷の中に王女様がいて、ちょこっとだけ声がして、謎を解かないとちゃんと声が聞こえないんでしっ」
「…それでは、少し分かりにくいですね」
 慌てた様子に“落ち着いて”と声をかけ水を渡し、次の言葉を待ちました。
「えっと…グラン塔の氷の中に王女様がいて、声が聞こえたんでし…ほとんど聞こえなかったけど」
「ふむふむ」
「おねーさんから教えてもらった謎を解いたら、ちゃんと聞こえるかもしれないんでし」
 氷はアミアの森の氷柱として…王女様はおそらくミュウ王女でしょう。
 どうやら、彼女は聞こえなかった声が、何を言っているのかを確かめたくて仕方がないようですね。
「分かりました。その謎というのを詳しく教えてくれませんか?」
 こくっと頷いたビオラちゃんから、教えてもらううちにある事を思い出しました。

「…お前ならどちらを選ぶ?」
 紙に走らせていたペンを止め、眉間にしわを作るエアトル様。
「どちらとは、どれとどれですか」
「…生まれ変わる日を待つか、それとも再会できると信じるか」
 その言葉で、何を言っているのか私にはすぐ分かりました。
「お前に聞くのは、酷な事だというのは分かってる。だが…」
「分かってます。グランの…件でしょう?」
 ある日を境に、考え込む事の増えたこの方の様子。
 一つの記憶を目にしてからだと知ったのは、それほど前の事ではありませんでした。
「どちらの私に問われておられるのかは分かりませんが。
今、ここにある…サーラとしての私なら再会出来る事を信じたいと思います」
「そうか…再会できるといいのだがな…」

「…分かりましか?」
 説明途中で謎は解けたけれど、その事を伝えかねてビオラちゃんを見ました。
 “彼女には教えない方がいいかもしれない”
 目を瞬かせて、期待に満ちた表情をしてますけれど、この事で後に待っているのは彼女にとって喜ばしい事とは思えません。
「そうですね…たぶん…時間がかかると思いますので、☆海で待っててくださいますか」
「あぃっ!」
 ぱたぱたと軽い足音をたてて遠ざかる足音。
 どうしたらいいのかは、確認してからでも遅くはないはず。
 もしも、予想が当たっていれば、その時はエアトル様に相談するとしましょう。




「エアトル様」
 恐る恐るといった雰囲気で声をかけられて、そちらへと振り向く。
「何だ、どうした」
 困ったような表情で私に示して見せたのは記憶石。
「それは…」
 前に1度は手にした物だが、また出くわすとは思っても見なかっただけに言葉が続かない。
「ビオラちゃんが興味を持っていまして…どうなさいますか?」
「…好奇心旺盛だな」
 目を閉じて、見た時の事を思い出してみた。
 厚き氷に閉ざされた切なく悲しいその思い。叶えさせる事が出来るなら…
「私から渡そう」
 手に取る私を驚いた表情で見るサーラ。
「いえ…本当に渡すおつもりですか?」
「この記憶は…今は悲しいと思うだけかもしれない。だが、より多くの人が共有すべき物だとも思う」
 守りたい、助けたいと思う人が増えれば増えるほど…願いの届く日が近付くに違いないと予感めいた物を感じる。

 並々ならぬ力を持ち、世界を守る事を運命付けられた1人の女性の物語。
 どうしても、他人事ととは思えないその出来事。
 似たような境遇にありながら、自らの世界を放棄しようとしている自分への嫌悪感なのかもしれないが、
 思い出すたびに心の奥で何かが澱む。

 だが、これだけは何故か確信している。
 彼女が望んだ事と我々が望む事はたぶん同じ…


 自分自身を見てくれた人のために在り続けたい




時間と空間を歪めることが出来る事と、自らの属する世界では稀有な存在である事。
エアトル、サーラを含む4人との共通点は結構あるなと思ったのはグラン小説からですが、
決定的に違うのは現時点での立場境遇かな…と。
自分の世界に帰れば、欲しくて手にしたわけではない力に振りまわされなければならない彼らであっても
PHI世界に来ている間は、全くの自由なわけですし(…過去には振りまわされてる気もしますが

珍しく三人とも絡んだなぁ…というわけで、日記で全部出すのはちょっと無理でした(^^;;
ビオラは気付かなかったけど、氷って触れば溶けるのに、手形が綺麗に残るのっておかしいんですよね…
というか、いたずらし過ぎですね、最近のビオラちゃんってば(。。

現時点であちこちに散らばってしまってる関連のお話はグラン塔を最後まで見届ける事が出来たその時、
改めてまとめたいです(待つのは嫌って方は探し出すのもありです(ぇ

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