■ 騎士団トリオ結成間近☆ ■


「こら!お前っ!こんなものも受けられなくてどうするってんだ!」
 びゅんと剣を振って怒鳴るのは、精霊騎士団長のソルティー=ドッグ。
「は…はいっ」
 それに答えるのは長い金の髪を無造作に束ねた騎士1年生のサーラ。
「もう一度だ!」
 ソルティーが上げた剣を振り下ろす。
 きぃん!!
「あ…」
 高い音をたてて跳ね飛ばされた剣に呆然とした一瞬後、剣の切っ先がその首に突きつけられていた。
「ここで行動が一瞬でも遅れるようでは、剣を持つ者として失格だぞ」
「は…はい。申し訳ありません」
 唇をかみしめるサーラにソルティーは言葉を続ける。
「お前は試験官を全て負かすほどの実力は持っている…が、それに驕れるようなことなくだな…」
 腕を組み頷きながら説教をする彼は、出来の悪い弟を叱っているような雰囲気すらある…が、
 ぼか!!
 突然頭を襲った衝撃にソルティーはつんのめる。
 今の今までかっこよく決めていたつもりのが台無しである。

「なっ!!?」
「お前…うちのを連れ出して何してる」
 振り返った先にはきつい目をした魔術師風の男…フェイルス・P・ティフェルが立っていた。
「ふぇ・・フェイぃ!?どうしてお前がここに」
 涙目の巨漢に一回りも二回りも小さい彼は怒鳴り散らす。
「どうしても何もない!!こいつは魔法騎士団所属なんだぞ!勝手に連れ出すんじゃない!」
 そう…サーラはソルティーの束ねる精霊騎士団に所属しているのではなく、もう一方の騎士団にいるはず…
 しかし、見込みありと踏んだソルティーが彼を連れ出す事毎日の如く。
 いい加減頭に来たフェイルスが出陣と相成ったわけである。

「だからって、いきなり頭を殴るこたぁないだろっ!?しかも剣の鞘でッ!!」
 怒鳴りつつソルティーは脳天を突き抜ける程の痛みを与えた原因を取り上げる。
「あっこら、返せ!!」
 いくら手を伸ばしても、この2人では身長差があって手が届かない。
「冗談じゃない!これでまた殴られちゃバカになる!」
「もう十分バカだろうが!」
 2人が出会った頃から繰り返されているこの言い争い…いやいや、言い争いだけですめばいい方で…
「この…っ」
 ごうっ!!
 突如放たれたファイアーボールに驚き、ソルティーは尻餅をつく。
「て…てめっ!!いきなりこれはないだろうがッ!!」
 前髪をわずかに焦がしたソルティーは、フェイルスの剣を鞘に収めたままで振り回す。
「わっ!危ないなっ!!」
 すんでの所で鞘をかわし、後ろに飛びずさる。
 そうやって睨み合う2人はまさに犬と猿。
 これが彼らのコミュニケーションと化しているのだから、周囲の者はたまったものじゃないだろう。
 ただし、他に多数のギャラリーがいた場合…の話だが。

「あ…あの…」
 今回唯一の見物人サーラの呼ぶ声で、正気に返った二人は顔を見合わせわざとらしいまでの笑みを浮かべる。
「サーラくぅん…この事は誰にもいわないよねぇ…」
 ことさらにやにや笑いを浮かべるソルティー。
「え???あ…あのっ?」
「こんな事は見てもいないし、聞いてもいないよなぁ…???」
 一転して今度はドスの効いた声に変わる、もちろん顔は笑ったままで恐怖心を煽る事この上なし。
「いえ…その・・・・」
 極めつけは直属上司フェイルスのいつになく低い声。
「何?何か言いたいことがあるのか…?」
 爽やかな笑顔を振りまいて、じりじりと間を詰める二人。
 その圧力に耐えきれなくなったサーラは冷や汗をかきながら答えた。
「は、はい…分かりました。私は何も見てませんし…聞いてもいません」
 それを聞いたソルティーはサーラの肩を叩く。
「よし!それじゃあ、お前もオレたちの仲間に入れてやろう」
「え?何のです?」
 意地悪く笑うソルティーにサーラが不安を覚え始めた頃、フェイルスが口を開く。
「お前も知ってるだろうけど、この国にはまだ幼い姫様がいる」
「はぁ…」
 “なんだか変な事になったなぁ”と考えるサーラに対し、副団長2人は気持ち悪いぐらいににやけている。
「実はな…この間誕生日が過ぎて3歳になった…のも知ってるよな」
「はい。それは存じてます」
 その話と“仲間”がどう関わっているんだろうと頭の隅で考える。
「で、だ。そろそろ守護騎士を3名程選出しよう事になってなぁ、オレとフェイじゃ1人足りないんだな、これが」
「まさか…私が!?」
 信じられないと言った声音にソルティーは愉快そうに答える。
「おうともよ!今んところメルティはオレとフェイ以外の大人には懐いてないけどな、お前なら大丈夫だろ」
 “厳密に言うと、大人の男性にはですけどね”
 しかし、それを言葉にして言ってしまうとサーラが拒否反応を示す事も目に見えている。
 それゆえフェイルスはそ知らぬ顔で頷くだけ。
「私なんかが姫様の守護騎士になっても大丈夫なんですか?」
「大丈夫。お前なら国王陛下も納得してくださるさ」
「そうそう、むしろシェルヴィアン様からなってくれって頼まれると思うぜ」
 “なにせ…メルティは守護騎士になれそうな他のやつらを怖がってたもんな…
 懐かれた上でオレたちが推せばすぐOK出すだろ”
 サーラには聞こえないように心の中で呟くソルティー。
「それなら私に断る理由は…」
「んじゃ、決まりなっ!」
 ばんばんとサーラの背中を叩いて大声で笑うソルティーと、うっすらと笑みを浮かべるフェイルス。
 さっきは犬と猿と例えた2人だが、実際には狸と狐と言う所か。
 

 それから数日後…ソルティーたちとの思惑とは別に、将来の騎士団長と女王は出会う事になる。




ひたすらこの2人に耐え抜いたサーラは、彼らを追い抜かして騎士団長になった上、
2人の可愛がっていた彼女も掻っ攫う事に成功。見事に立場逆転ヽ(´ー`)ノ
よもや自分たちの思惑がある意味最悪の結果を導き出すとは、この当時2人は微塵も考えてなかった事でしょう(’’
前のサイトに置いてた物をストーリー変更、大部分修正(。。

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