留置所送り直前?


「あ、エアトル様。私でもニャルのオーブが出ましたよ」
 サーラがNEVへとやってきた私にそう言った。
 この間、他のオーブを持ってきてくれと頼んだのだが、サーラでもニャルのオーブか…
「でも、最初は別のオーブだったんです。
 腕試しにと倒してみれば、レベルが上がってしまったみたいで」
 ははは…と笑う彼に頭を抱える。
『いくつか手に入れてから挑んでくれれば…』
 そう言いたいのは山々だったが、彼の職業を考えてみれば強い相手と聞くと腕試しをしてみたいというのも分かる。
 現に彼の妹は、強い相手と見れば即座に勝負を申し込む癖がある。
 ある意味似た者兄妹だな。
「それで…ニャルなんですけど…」
 溜息をつきながら、どさっと椅子に腰を下ろした私にサーラはとんでもない事を言う。
「何とか倒しましたけど、もう一度倒せと言われてもしばらくやる気が起こりませんね」
「なっ・・・ニャルを倒した!?」
「えぇ」
 さらっとこともなげに言うのが信じられん。
 私があそこで戦ったのは初めから3番目ぐらいまでの召喚獣。
 だが、この間行ってみれば、出てきたのは…
『冗談じゃない!ニャルトテップと言えばあの悪名高き邪神ではないか!』
 そう叫んで、そのまま戻っていたのを思い出す。
 サーラにオーブを取ってきてくれと言ったのもそういったわけがあっての事だったが…
 まさか倒してしまうとはな。
「あの場所で召喚するのはあの日が初めてでしたけど、面白かったですよ」
 楽しそうに笑いながら剣の手入れを始めたサーラ。
 その様子を見ていて、ふと疑問に思う。
「ところで、サーラ…何度やられた」
 振りかえったサーラはあっさり『途中から数えるのを止めました』と答える。
 思わず顔が引きつるのは私。
「途中からって…まさか10を超えたか!?」
「あ〜…それぐらいは軽く超えてますね」
 頭がくらくらする…
「よく、留置所にぶち込まれなかったものだな…」
 あの世界は10回やられれば留置所行き一週間という話を聞く。
 私もまだこのPHI世界にきて間もない頃…
 “持ち出し禁止物”の存在を知らずにあの世界を出て行こうとして断頭台に送られた記憶がある。
 それぐらいにあの世界はシビアだ。
「私もバカではありませんからね、転送権利を持っている方がいないのを見て挑戦してますよ」
「それじゃ不充分だ。
 あの世界にはマスターにそういった事を親切丁寧にご報告する者もいるんだぞ」
 私の言葉に『ふぅん・・・そうですか』とあまり気にして無い様子で答えるサーラ。
「おいおいおい…“ふぅん”じゃないだろう。次行った時に危ないぞ」
「別に構いませんよ。滅多な事ではあの世界へ行きませんし…
 第一あんな危ない物を放っておくわけにはいかないでしょう。現に私が戦っている時に入ってきた数名が被害にあってるんですよ」
 そりゃ…確かにあんなのを放って置いたら、後の惨劇は目に見える。
 ガイアースのように掃除機があればいいんだがな。
「だからといって、何も自分で倒そうとせずとも…」
「倒せそうな知り合いがいれば、その方に援護を頼んでいたでしょうが、あの時はいなかったんですよ。
 そうなれば、自分で倒すしかないでしょう。
 例え、それで留置所に入れられる事になろうとも、ね」
 う…まぁ、それはそうなんだが…
「今度行くとすれば、ニャルの一撃に耐えられるようになってからですね」
 唸っていた私の耳にこんなとんでもない言葉が飛び込んでくる。
「またニャルとやりあう気か!?」
「次回は一度もやられずに倒してみせますよ。
 そのために体力をつけるのはもちろん、剣の腕も上げなくてはなりませんが、
 目標も無く、だらだらと鍛えるよりはよほど健全だと思いませんか?」 
 にっこりと笑うサーラに“実は血の気が多く負けず嫌いなんだな”とつくづく思い知らされる。
 はぁ…あの子はよくもまぁ彼を御し切れているものだな。
 私には無理だ…




ちょっとネタバレチック…
ですが、これを読んでる方には全て周知の事実のような(^^;
オーブの法則をひとつとはいえ分かったのが一番の収穫だったかも(ぇ
マスターのWazeeさんがいる時には留置所が怖くて出来ません。
次はサーラが育った時…ですかね?
今の彼でも技が入ってクリティカル出せれば15000ダメージなんだな…
ちなみにエアトルはデブにしたくないので、多分一生挑戦しないでしょう(ぉ

Back