□ Delightful days □
「光と闇」
「表裏一体の物」
「善と悪」
「綺麗に分ける事の出来ない物」
延々続く螺旋階段のような言葉に答えを返してきた伯父上。
その視線は手元にある紙の束に注がれていた。
「それら全てを含むものは?」
うち数枚が机に置かれて、返ってきたのが「人」という一言。
ごくあっさりと示されるものについて考えるこの時間が、私はとても好きだったりする。
僅かな言葉で交わすこの瞬間が一番自分らしいと感じるから。
“どうした?”
そう言う様に私へと向けられた視線。
「いいえ、何も」
薄い笑みを浮かべて答えた。
「そうか」
戻った視線の主の唇も、一見そうとは分からないぐらいにだが弧を描いている。
“私たちが似ていると言われるのも仕方ないか…”
一つ頷いて、再び言葉を綴った。
「人、不可解な物」
「感情の生き物とも言うな」
全ての紙を机に置き終えた伯父上は、そう言って指を組んだ。
「その心の持ちようで何にでもなる。善にも悪にも、光にも闇にも…そのどちらでもなく、境目のない物」
「でも、分けよう、線引きをしようとするのもまた人…でしたね」
何度も聞いた言葉を受けて答えると、苦笑が返って来た。
「そんなうんざりされる程に言ったつもりはないがな」
「うんざりなんてしてませんよ。私の地の顔がそう見えるだけではないですか?」
にこりともせずに言うと、くすくすと笑い声。
「本当に…私の子でない事が不思議なぐらいだ」
「えぇ。自分でも不思議です」
「まぁ、似ているといっても同じになる事はないな。ほら迎えが来たぞ」
自分が背を向けていた方…指差された先には、扉の隙間から覗きこむ顔が1,2,3…
瞬間、パタンと閉まる扉。
「見つかっちゃったよ、どうする?」
「やっぱりノックしてから…」
「だって、まだ終わってないと思ったんだから、しょうがないじゃないか〜」
慌てきった声、泣きそうな声、ふてくされる声。
3種類の声が聞こえて、外がどんな様子かをこれ以上はないというぐらいに教えてくれる。
「あれがいる限り、私のようにはなるまいて」
笑いをこらえようともせずに伯父上は“早く行った”と手で指し示した。
「そうですね。彼女たちがいる限り、貴方のように楽しい毎日が暮らせるでしょうね」
「どういうことだ?」
立ちあがりながら言った言葉に目を白黒させた伯父上。
「幸せ、楽しみ。それも人それぞれ。他から見れば不幸に見えても、本人にとっては幸せであるかもしれない」
呟いた私は扉に手をかけて、自分にとって最大級の笑顔を向けた。
「なら…逆もまた然り、私から見れば、母たちの気まぐれに巻き込まれる貴方も楽しそうに見えるって事ですよ。義父上」
再び閉まる扉の向こうから投げかけられた言葉。
「そう呼ぶにはまだ早い」
開いた扉から出ていった瞬間から、さっきまでとは全く違う時間が流れ出す。
でも、その時間も嫌いじゃない。
そう…これが私のDelightful days
善と悪。人が決めて法という基準を作ろうとする物。
けれど、その法に従う者が善かと言えばそうでもなく。
歴史の中には悪法と呼ばれる物もあり、今もそれが多少なりともどこかに残っている。
光と闇で考えると、勧善懲悪型の一般的なファンタジーだと光=善・闇=悪という風な観点でもって、
ストーリーが進んだりする事が多いわけですが、
「そんな事を一体誰が決めたんだ?」「それぞれの主観によっては逆もありうるだろう」と思うわけで。
まぁ…そんな今回の裏テーマは主観と客観、ですかね(笑
ちなみに語り手となっている甥とはヴィエルです(PHIからのお付き合いの方には分かりにくいかと思いますが(^^;
覗きこんだ3人は…それぞれセリフからご判断を(w
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