□ 共犯者 □
「あ…フレイア様」
てくてくと歩いていた私はその言葉にびくっとなって立ち止まる。
『フレイア様』???
そう呼ぶってことは…私のことを知ってる…
「やばっ!!!」
振りかえりもせずに脱兎のごとく駆け出そうとした私の腕をバシッと掴む手。
「やだ〜っ離して〜っ!!」
ぎゃぁぎゃぁ叫んで暴れて手を剥がそうとしても、ばっちり掴まれた腕はそのまんま。
「ちょ…ちょっと落ち着いてください。
わわっ痛いですってば…」
その言葉と同時に爪がビッと顔に引っかき傷を作る。
「あ…フォルク」
正気に戻ってまじまじと見れば、それはフォルクで…
「ホントにもう…逃げるならちゃんと顔を見てからにしてくださいよ」
「ん…よく考えてみれば“フレイア様”なんて呼ぶのってサーラとフォルクぐらいだもんね…なぁんだ、焦って損した。
ごめんね、痛かった?」
うっすらと血が滲む頬に触れる。
あ〜…一応は吟遊詩人のフォルクの顔に傷つけちゃって悪い事しちゃったなぁ…
「あぁ、こんなのはしばらくすれば治りますから気になさらずに。
それよりあなたも懲りないですねぇ…普通に飛び出すだけじゃ飽きたらずに、今度は異世界ですか」
「だって、面白くないんだもん」
とりあえずは私を連れ戻そうって雰囲気じゃないから、ちょこっと話してみようかなって気になる。
「いっつもいっつもお仕事ばっか。
兄さんみたいに枯れ果ててるわけじゃないんだから、もっと外にも出たいし遊びたい!」
それとは別に、停滞しがちなエルフの時間に入れるスパイスを探したいって事もあるんだけど。
人間の世界に行って色々と吸収してエルフたちにばら撒く。
そのために私が行った“試練”ってのがあるんだと思うんだけどなぁ…
「毎日毎日同じ事の繰り返しで気が滅入っちゃう。
樹だって新しい水をあげなきゃ枯れちゃうでしょ?」
「それは一理ありますね」
“うん”とひとつ頷いた所で我が意得たり!
「だから、お願い!向こうには時々戻るから兄さんには内緒にしてて!」
と手を合わせてお願いポーズ。
でも、フォルクは、思わずげんなりする事を言った。
「…エアトル様ももうこの世界にきてますよ」
「げ…」
フォルクだけじゃなかったんだ。
こっちに比較的簡単にこれるのは、兄さんとフォルクと…
「じゃぁ…サーラも?」
頷いたフォルクにまたがっくり。
「嫌〜っ!!サーラまで来てるんじゃ逃げ切れないっ」
いくらなんでも、サーラと兄さんが組んできてるんじゃ自信はなし。
“兄さんだけならどうにでも…”
“サーラだけでも何とか…”
って思うんだけど、あの2人が組んだ日には、どうにもならない。
「うぅ…サーラもこっち側に付いてくれないかなぁ…」
「“も”?
私はまだエアトル様に黙ってるとは言ってませんよ」
「あ、酷い。自分が仕える女王を売るつもりなんだ。
フォルクは兄さんとの友情と私。どっちが大事なのよ」
『どう答えるかによって次の行動が180度違うよ』とは言わない。
兄さんを取るなら…もちろんライトニングかまして、即座にそこから逃げるつもり。
「そりゃ、あなたですよ。他に答え様がありません」
ふむふむ、とりあえずポイントアップ。
「じゃぁ、黙っててくれるんだよね」
にこ〜っと笑顔で言ってみる。
断れないのはもう十分に分かってるけど、念には念を入れないとね。
「まぁ、それは構いませんけども…サーラはどうするんです?」
“ふむ”と手を顎に当てたフォルクが言うのは今一番の問題。
「うーん…それとなく連れ戻しに燃えてるかどうか調べてくれないかなぁ。
兄さんは問答無用だと思うんだけど、サーラは微妙…」
大体は私の好きにさせてくれるんだけど、時々頑固なんだもん。
今回がその“時々”になってないとは言いきれないし、今までと違って完全な異世界にきてるしなぁ…
とりあえずはフォルクは黙っててくれるみたいだし、運悪く会ったりしない限りは捕まったりしないよね。
「あぁ、そうだ…兄さんってどの世界をうろうろしてる?」
どの辺りによくいるか知ってれば、その世界に近寄らないで、更に会う確率はダウン。
ふふふふ〜♪かくれんぼみたいだなぁ
「夢見を中心に活動されているようですけどね…NOIやその周辺世界にもよくいらしてますよ」
…それって、ほとんどって事じゃないの?
そう思ったけど、口に出して尋ねた結果「そうですね」なんて言われた日には目も当てられないから、聞くのをやめよっと。
でも、そんなに活動範囲が広いなら迂闊に出歩けないなぁ…
『どうしたらいいかなぁ?』と考えていた私の目の前にてくてくと歩いていく紫色のにゃんこが…
「あ、可愛い」
ぱたぱたと持ち物を調べて、食べ物を取り出す。
「ほらほら、こっちこっち、おいしいものがあるよ〜」
しゃがんで、干したお魚をひらひらと振ると、にゃんこがこっちに歩いてくる。
「きゃ〜♪来た来た」
ねこはうるさいのが苦手だから、小さな声で歓声を上げてみたり…
「フレイア様…本当にねこがお好きですね。
大体その魚、いつも持ち歩いてるんですか?」
失礼な。
いくらなんでもこんな物いつも持ち歩いてるわけないじゃないの。
「今日はたまたま持ってただけ」
すぐ足下まで来たねこをひょいっと抱き上げちゃう。
「うきゃ…紫色…珍しい〜」
眼の色は藍色で、ちょっと渋みがある。
「サーラとそっくりな色の目〜」
その言葉に憮然とするフォルク。
「私の方が似てますよ」
「そう?全然似てないと思うけど」
サーラは日暮れが近づいてきた時の空の青。
フォルクは深い海の青。
で、このにゃんこは藍色だから…
「やっぱり、サーラの方が似てる。
うん、この子この世界での使い魔にしたいな♪」
何と言ってもこの紫色が綺麗。
「…ねこが嫌がらなければお好きにどうぞ」
「うん」
小さくちぎったお魚を口に持っていったりして…
「にぁ〜…」
“もっとちょうだい”とせがむにゃんこにミルクも出してみたりする。
うぅう…ちっちゃくて、にごにごしててかわいいよぅ・・・
「ねぇ、ねこちゃん。私の使い魔にならない?」
しばらく経ってすっかり懐いたと思った頃に、そう声をかけてみる。
そうしておいて、地面に静かに下ろして、反応を見て・・・。
走って逃げちゃうようだったら、きっと嫌なんだろうから諦めるしかないよね。
「逃げませんねぇ…それどころか近寄って来てる…」
そう、フォルクの言う通り、にゃんこは私に擦り寄ってごろごろとのどを鳴らしてる。
「使い魔決定っ
じゃぁ、フォル。後の事はよろしく〜」
もう一回抱き上げて、いそいそと戻る。
どこへって…?
それは秘密♪
「え?あ…フレイア様?」
フォルクがあたふたとしているのを無視して、一直線にいつもの世界へ♪
さて、この子の名前は何にしようかなぁ〜
やっぱり呼び慣れたあの名前がいいかしら…
ビオラの妹ねことトラップとの出会いですね(^^;
「どんな風に出会った事になってるの?」と聞いたら「道端でばったり」との事だったので、こんな風にしてみました。
本当に普段彼女は何してるんだろう…
時折、私の家にいたずら書きとポストに足跡をべたっと残していくんですけども…(−−;
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